ひょっとして私より大切なの? ペットと愛情争奪戦
「この人」って僕じゃないの?
「この人、きのうから食欲がないのよ」。心配そうな妻の言葉に思わず耳を疑った。「人?」。2歳になる我が家の愛犬のことだ。こちらは送別会の二日酔いで朝食を見るのもつらい。しかし自業自得とばかりに軽くあしらわれ、犬が人様以上に同情を買うのも問題ではないか。
確かに犬はかわいい。2人の子が幼いころから大学時代まで共に過ごした先代は4年前、老衰で死んだ。初めて子犬と出会った時の子の笑顔、ボールを追って野原を駆ける犬の勇姿。晩年は後ろ足が立たず散歩は簡単ではなかったが、一緒に歩き続けた。家族で最期をみとった時、「二度と犬は飼うまい」と涙ながらに誓ったものだ。
それから2年。「犬を飼って」と言い出した娘の言葉に誰も反対しなかった。みんな寂しかったのだ。
誤算は誰が散歩させるかだった。歳月は光景を変える。平日、朝晩の2回付き合うほど私も体力と時間がない。妻も腰痛がきつい。結局、高齢の義父母が、若さを持て余す犬の散歩に付き合うことに……。
娘は既に嫁に行き、息子も仕事であまり家に戻れない。休日、せめて私が目いっぱい遊んでやることが、「お犬様」への償いだ。
「17歳の彼女」に冷める
「目が合うだけで、気持ちが伝わるの」。40歳代独身の職場の先輩、Aさんの恋人は猫だ。月々のシャンプー、カット代は本人の髪より高いらしい。夏休みも「さびしがるから」と、北海道へ日帰り旅行。「部屋にフンをするから臭くて困って」なんて愚痴ることもあるけど、表情はうれしそう。冬の晩、ふわふわの猫がベッドにもぐり込んできたら、幸せなんだろうな。
友人に紹介され「ちょっといいな」と思ったあの彼も、犬にぞっこんだった。初めて2人で出かけた夕食の席でも、話の中心は犬自慢。子犬のころの写真に公園で走り回っている動画。「かっわいいでしょー」と目を細めている。
彼が喜ぶから犬をほめちぎったら、翌日から早朝に散歩の写真が送られてくるようになった。しかも犬の服が毎日違う。「おしゃれさんですね」と返信したら「人間の年齢で言えば、17歳のギャルですから」だって。悪かったわね、こちらはアラサーで……。
彼にとって犬は彼女なのか、子どもなのかはわからない。ただ、彼が何より大事にする家族に、どうやら私は付き合いきれないみたい。恋心も冷めた。
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