駐車下手、スピード出し過ぎ 迷ドライバーはどっちだ
ブレーキが荒い……
「何だよ、この駐車場。狭すぎるんだよな」。夫の愚痴が始まった。スーパーの駐車場で、車を何度も切り返し、やっとのことで駐車スペースに入れた夫。額にうっすら汗をかいている。
ほぼ毎週末利用している駐車場なのに、何で手際が悪いのか。口に出すと大げんかになるから黙っているが、心の中ではいつも思っている。「夫は運転が下手だ」と。
駐車だけではない。夫の運転ときたら、ブレーキをかけるたび助手席の私の体がガックンと前にのめるくらい荒っぽい。それなのに、私が運転を交代すると「右折が遅い」「のろのろ走るな」と文句の嵐。「あなたに言われたくない」というセリフがいつも喉まで出かかる。
ちゃんと比較材料はある。例えば学生時代の彼。高速での車線変更は実に鮮やか。交差点でのブレーキのかけ方も滑らかだったし、車庫入れで戸惑っていた記憶など全くない。彼は今、家族を乗せてスイスイ運転しているのかな。
あ、夫がまた交差点で乱暴に止まった。せっかく昔の彼を思い出していたのに。それとも、夫はわざと下手な運転をして、過去の思い出に浸る妻の心にブレーキをかけたのか。だとしたら、かなりの名ドライバーだわ。
ハンドル握るとなぜ強気
「まだ右折しちゃダメ。前から車が来ているじゃないの」「あなた、スピード出し過ぎよ!」。妻を車の助手席に乗せるたび、僕はちょっと嫌な思いをする。別に荒い運転をしているつもりはないのに、横から小言を連発されるのだ。
妻は怖がりで、ジェットコースターの類いには絶対に乗れない。だから助手席に座っていて、怖いことが起きないよう僕をけん制したくなるのかもしれない。けれども、対向車がまだ遠くにいて豆粒みたいなのに「右折しちゃダメ」と言われると、ムッとしたくもなる。
そんな彼女がハンドルを握ると、どういうわけか強気になり、乱暴な運転を始める。普通に曲がればいいところで、急にハンドルを切るようにして曲がり、タイヤを鳴らすこともある。そのうちに「前の車、遅いわね」と言って、車間距離を縮め始めるからジェットコースターよりもスリリングだ。
一体どっちの妻が本当の姿なのだろう。妻が運転しているとき、僕は「スピード出し過ぎだよ」と言い返したくなるが、家庭の平和が乱れそうだから、ぐっとのみ込む。ひそかにシートベルトを握りしめていることを、彼女は気づいてないだろうなあ。
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