聖域は汚されたくないのよ キッチンは誰のもの
道具ばかりが増えていく
冷蔵庫に張り付くオレンジ色の物体。よく見ると見たことのないキッチンタイマーだった。
週末に夫が「厨房に入る」ことが増えたのに伴い、見慣れぬ道具がキッチンを占拠するようになってきた。レシピをみるためのiPad(アイパッド)立て、大さじ小さじのスプーンセット、小さなボウル……。収納場所がない新顔があちこちに転がる。
「たまにはゆっくりしていなよ」と親切心で週末の料理を買って出ている夫。大手レシピ投稿サイトに有料会員登録までして、高評価のレシピを拾い出しては腕をふるう。最近は自信もついたとみえ、「ママのとどっちがおいしい?」などと挑戦的な言葉も聞かれる。
しかし夫は目分量や勘で味を調節することができないそうで、レシピに正確に従うことにこだわる。だから大さじ1と2分の1と書いてあれば、その通りきっちり計れるスプーンを購入し、「3分加熱」なら3分ぴったり計れるタイマーを買う。道具ばかりがあふれる理由だ。
「よい加減」でやればいいものを。私からみると無駄に思えるものばかり。車の「車庫証明」のように、道具も収納場所を確保してから買ってよね。
「マイキッチン」は遠い夢?
夕食を作るとき、僕はまず台所の収納棚にある小さな引き出しから、自分の計量スプーンやタイマーなどを取り出す。妻から割り当てられたこの引き出しは、高い位置なので、もともと妻には使い勝手が悪かったらしい。今は僕の聖域で、100円ショップで買ったお気に入りの料理グッズがわんさか入っている。
この「マイ引き出し」を除けば、台所はすべて妻の管理下にある。どの鍋を、どこにどのように置くか、妻が決めたルールに従わないといけない。どんなに欲しいフライパンがあっても「そんなの、置く場所がないでしょ」と却下され、僕の料理ライフは先に進まない。
調理の仕方も妻のやり方に縛られる。例えばニンジンの皮をむくとき、本当は包丁の背を使いたいのだが、皮が飛び散るのを嫌う妻の希望をいれて、ピーラーのお世話になる。ステーキ肉を焼くときも油が飛ばないように、なるべくフタを使っている。
台所は女性のものだと一番感じさせられるのは鍋や皿を洗うときだ。低い位置にある流し台を使っているうちに、僕は無理な姿勢がたたって腰が痛くなる。いつか対等に使えるようにリフォームしたいものだが、妻はウンと言わないだろうなあ。
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