口径約12センチと小ぶりな黒茶碗(わん)をのぞくと、瑠璃(るり)色の斑紋が浮かんでいる。大阪市の藤田美術館所蔵の国宝・曜変天目茶碗は、薄い水色から紫がかった青までのグラデーションが天の川のようだ。
■現存は日本の3碗のみ
斑紋は手で描いたのではない。「曜変」は元は「窯変」と表記され、窯で焼成する際の何らかの変化で斑紋が生じたものを指す。宋代に福建省でつくられたとされるが、妖しいまでの輝きを生む製法はいまだ謎だ。
現存するのは日本にある国宝の3碗のみとされる。「天下三碗」と称され、同館のほか東京の静嘉堂文庫美術館と京都の大徳寺龍光院に伝わる(龍光院のものは京都国立博物館に寄託中)。ミステリアスな輝きのためか、うち2つは大名家でも珍重された。静嘉堂文庫美術館の品は徳川家光が乳母の春日局に与え、その嫁ぎ先の稲葉家に伝わったものを三菱財閥の岩崎家が買い取った。藤田美術館の品は徳川家康が水戸徳川家に与え、その伝来品を大正期に藤田財閥の藤田家が購入した。