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立川談笑、らくご「虎の穴」

談笑>談志 初代の名前に気まずい事実

2015/7/29

「落語」の由来を遡ると中国の笑話集だとかお坊さんの辻説法だとかあるのですが、少なくとも一般的な娯楽としては江戸時代に定着したようです。私、立川談笑は6代目を名乗っておりますが、ずっとずーっと昔の初代の頃の昔話をしてみます。

今から約200年ほど前のこと。「寛政の改革」の締め付けがぐっと緩んで、江戸文化がのびのびと花開いた時期の話です。もっとも、すぐまた後に天保の改革が始まって庶民は再び息苦しい生活を強いられることになります。隠居した11代将軍徳川家斉が大御所として権勢をふるっていたところから、後に民衆がその時代を懐かしく振り返って呼び慣わしたのが「大御所時代」。我々には文化文政時代というとなじみがあります。

日本経済新聞社で開かれた落語会で高座に上がる立川談笑師匠

そのころ江戸の町に、職業的落語家=プロの落語家の第一号が誕生しました。名前は、立川談笑。そう、今の私、6代目立川談笑を遡る初代のことです。その時代の落語家の名跡で今に通じるのは、三笑亭可楽、桃月庵白酒などがあります。

その当時、烏亭焉馬(うていえんば)という才人がおりました。戯作や歌舞伎台本の執筆など娯楽や文化の第一線で縦横無尽に活躍する、カルチャー界のスーパースターです。彼は「咄(はなし)の会」と称して落語会までをも催し、自らも出演して大好評を博していました。落語の時に名乗っていたのは住まいである本所「堅川」(現在の東京都墨田区)から、「立川」焉馬。

幅広い活躍から各分野の弟子が数多(あまた)いる中、落語では初の弟子入りを果たしたのが足袋屋庄八という二十歳そこそこの若者、後の初代立川談笑です。師匠の焉馬は50歳。芸名をつけたのは、同じ焉馬の先輩弟子で数歳年上である式亭三馬。絵も描いたし文章では『浮世風呂』として今に名を残す、その時代のエンタメ界の若き売れっ子です。

今に続く寄席、つまり演芸場の定席はまだまだ草創期でした。初代談笑をはじめとする落語家の多くは、例えば本所あたりの料理屋の二階座敷などで「はなしの会」と銘打って、客を集めては興行をしていました。会の内容としては、短い小話を数多く披露しました。20~30人もの出演者が頻繁に入れ替わることもあれば、少人数で数多く話をすることもあったようです。

客は新作を期待しましたし、プロやセミプロの落語家たちは中国の笑話を基にしたりあるいは初めから作ったりすることもあったでしょう。話術のほどは想像するしかありませんが、少なくとも落語家たちはかなりの創作力を必要としたこと、客席は大いに笑い転げたであろうことは確かです。後日、評判の良かった作品を収録して書籍として出版することもはやりました。これらの中には、古典落語の演目として確立して現在も頻繁に高座にかけられるものが数多くあります。

初代立川談笑の墓石は今も東京・港区芝の正伝寺にあります。毎年年末には本堂で奉納落語会をさせていただくのですが、立地はまさに古典落語『芝浜』のご当地でもあり、毎度墓に手を合わせるたびに奇妙な縁をかみしめています。東海道新幹線の車窓からもよく見えるお寺です。

資料から推察すると江戸時代に生きた専業落語家第一号、立川談笑(初代)は27歳くらいの若さで没しています。なんと弟子入り後わずか3~4年ほどでこの世を去っているのです。

没後ほどなくして、立川談笑の名跡を襲名して2代目を名乗る者が現れました。彼は初代談笑の弟子ではなく、焉馬の弟子。つまりおとうと弟子だったようです。それでもその時代に早くも名を継がれるとは、わずかな活動時期ながら談笑(初代)の人気のほどがうかがえます。

そしてその、2代目談笑の名を継いだ後輩がかつて名乗っていたのが立川談志(初代)。えー。何が言いたいかというと。名前に関してだけは談志より談笑の方が上だったらしいぞ、という。気まずい事実であります。

(次回は8月12日の更新予定)

立川談笑(たてかわ・だんしょう) 1965年、東京都江東区で生まれる。海城高校から早稲田大学法学部へ。高校時代は柔道で体を鍛え、大学時代は六法全書で知識を蓄える。予備校講師など様々なアルバイトを経験し、93年に立川談志に入門。立川談生を名乗る。テレビの情報番組でリポーターを務めながら芸を磨く。96年に二ツ目昇進、2003年に談笑に改名。05年に真打昇進。古典落語をもとにブラックジョークを交えた改作に定評がある。十八番は「居酒屋」を改作した「イラサリマケー」など。
<今後の予定>都内での独演会8月18日、9月16日、吉笑(二ツ目)、笑二(同)の弟子2人とともに武蔵野公会堂(東京都武蔵野市)で開く一門会は8月28日、9月25日の予定。
立川談笑HP http://www.danshou.jp/

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