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畳の張り替え・浴室の修繕… 師匠談志へのお中元

立川談笑

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NIKKEI STYLE

 私が前座時代のお話です。師匠の立川談志からお客様や関係者に贈るお中元は、浴衣地(ゆかたじ)が定番でした。「談」「志」の文字などを図案化して染め抜いた反物で、年ごとにデザインを変えていました。

仕立て上がった談志浴衣を颯爽(さっそう)とまとったお客様が落語会の客席ロビーを行き来する姿は、とても夏らしく素敵な風情でした。談志浴衣地の数年分をそれぞれ少しずつ使って貼り交ぜに仕立てた浴衣姿もお見かけしました。粋なものです。

わが立川流一門には「年番」という制度があります。いわば日直とか当番のような役職です。師匠と弟子という密接な間柄であっても、1人の師匠に対して20~30名もの弟子たちとなるとやりとりだけでも煩雑になります。そこで連絡係として活躍するのが、年番です。弟子一同を代表して師匠に接する役割で、時間と労力の負担がかかるため一年交代で当番にあたる。だから「年番」。業務としては、大きく3つ。(1)盆、暮れ、年始の挨拶(総会)の仕切り、(2)談志へのお中元、お歳暮の手配、(3)談志のご機嫌伺い、などです。

そして中元、歳暮はオーダー制でした。

「盆暮れ、季節の挨拶な。あれ、ひとりひとつずつ細かいものを持ってこられても、こっちは必ずしもうれしくはないんだ。弟子たちも手間だろう。そこでどうせだったら、まとめてひとつ今まさに必要なものをドンと持ってきてもらう方がいいんじゃねえか、と」

かなり特殊な『虚礼廃止』です。一般では「虚礼なんだから、よしましょう」になるところを、「虚礼は、まとめて本礼にしてくれ」。世間とは逆方向です。

時節が近づくと、年番が師匠にお伺いを立てます。私が知る限り、案も含めて色々なオーダーがありました。PAL方式(日本国内と別規格)対応のビデオデッキ。掃除機。炊飯器。衛星放送システム。畳の張り替え。浴室の修繕。

この内容だけでも一般的な「お中元・お歳暮」の域はとっくに超えています。かかる費用も上下差が激しくて、上は30万円以上で下は2万円程度。

「それは安すぎます」

「ちょっと値が張るので、次のお歳暮と合わせていただけると……」

なんて年番から師匠にご進言したり。いろいろな意味で世間の常識を超越していました。

中華鍋事件というのがありました。前座の頃です。

「前座からは、…そうだなあ。フライパン。鍋でいいや」

前座の先輩は6人。私と、同期に入門した者を入れ総勢8人でフライパン一丁。安く済んで良かった!と前座一同喜びました。が、その判断は、甘かった。

その時に師匠がほしかったのは、深夜の通販番組か何かで見たらしいフライパン。困ったのは、うろ覚えで情報が不明確なことです。

「わりとでかくて、深い。中華鍋っぽくて、内側はテフロン加工とかそういう」

28センチ径ほどで5センチくらいの深さがある片手パンは、今でこそ調理器具売り場で頻繁に見かけます(現在私も愛用しています)が、当時は非常に珍しかったのです。

前座たちがお金を出し合ってそれらしき大ぶりのフライパンを買って、おずおずと差し出しました。

「師匠、前座からのお中元。フライパンをお持ちしました」

「おうっ、ありがとう」と受け取るや、「ああ、違うんだよ」と談志の顔色が曇ります。

「こんな浅いのじゃなくて、もっとずっと深いんだ。まあいいや。とりあえずもらっておく」

後日改めて深そうなフライパンを探して、再び持っていきます。すると、

「もっと中華鍋っぽいんだよなあ。とりあえずもらっておく」

この繰り返し。談志の家には似たようなフライパンが増えるばかりで、前座一同のお中元探しはいつまでも終わりません。そこでとうとう幻のフライパンに懸賞金がかけられました。

「師匠の求めるフライパンを見つけ出した者には、賞金1万円を与える」

インターネットが未発達の時代でした。調理器具を専門に扱うかっぱ橋道具街に足を運んでようやく探し出したものです。

二ツ目になってテレビの仕事を始めるようになった頃。年番だった私は、その冬のお歳暮として最新式の炊飯器を届けました。その数日後、携帯電話に談志からの着信があった時、私はロケで北海道上川町のジャンプ場をのぼっていました。当時話題だった長野五輪金メダルの原田雅彦選手ゆかりのジャンプ台です。雪深くてただでさえ滑りやすいところに、私は愚かにも普通の革靴。師匠からの着信と気づき、私は大いに慌てました。

「おはようございます。談笑でございます」

「たけねえんだよ」

「……?」

いつも談志は電話をかけるとき、名乗りもせず挨拶もなくいきなり用件から切り出します。(炊飯器の話か!)頭をフル回転させながらも動揺は押し隠します。足元が滑った気がしますが、それどころじゃない。電話の応対に集中して冷静さを装います。

「可能性としては初期不良とも考えられますが、どんな状態でしょう」

「生煮えになっちゃうんだ」

「通電はしているわけですね。すると操作が違うのかもしれません……」

スーツ姿で気を付けの姿勢のまま、雪のジャンプ台を逆さにズザザザザと滑り落ちながら炊飯器の操作説明をする男の様子は、長らく番組スタッフの間で語り草になっていました。

さて炊飯器の方はというと、結局メーカーから技術者が談志宅に出向いて丁寧に対応してくれることになりました。専門家の調査によると、「炊飯」ではなく「保温」のスイッチを押していた、と。そんなオチです。

(次回は7月29日更新の予定)

 立川談笑(たてかわ・だんしょう) 1965年、東京都江東区で生まれる。海城高校から早稲田大学法学部へ。高校時代は柔道で体を鍛え、大学時代は六法全書で知識を蓄える。予備校講師など様々なアルバイトを経験し、93年に立川談志に入門。立川談生を名乗る。テレビの情報番組でリポーターを務めながら芸を磨く。96年に二ツ目昇進、2003年に談笑に改名。05年に真打昇進。古典落語をもとにブラックジョークを交えた改作に定評がある。十八番は「居酒屋」を改作した「イラサリマケー」など。
<今後の予定>都内での独演会8月18日、吉笑(二ツ目)、笑二(同)の弟子2人とともに武蔵野公会堂(東京都武蔵野市)で開く一門会は7月26日、8月28日の予定。
立川談笑HP http://www.danshou.jp/

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