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銀シャリに闇鍋風カレー 食を愛した「家元」談志

立川談笑

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NIKKEI STYLE

 師匠立川談志の話をします。落語立川流家元。かつて談志の噂をするときは大抵「家元は……」という言い方をしたのに、亡くなって以降は「師匠は……」または「談志は……」と言います。理由は分かりませんが、私以外の弟子たちや他の協会の落語家にも同様の変化があると感じています。今回は昔の気持ちになって「家元」で通します。家元の食べ物にまつわる思い出話です。

「俺より頭の悪いやつが作ったものなんか、食ったって美味いワケがねえ」とは、家元がよく言っていたセリフです。その一方で少なからず「これは美味い!」というものがありましたから、頭のいい人は案外あちこちに存在したのでしょうw。

家元は、厨房に立つことが好きな人でした。餃子は皮から手作り。小麦粉をこねて小さく丸めた生地を小型ののし棒で薄く円状に伸ばして。さっさっ、さっさっと生地を回しながら、実に器用なものでした。家庭でこれをやる人はそうそういないでしょう。

また、大量にトウモロコシを頂いたとき。新鮮なまますぐに茹でて、まな板に垂直に立てる形で実を包丁で削いでいきます。粒になったコーンをミキサーにかけて布でこす。絞り汁(牛乳は入れたかな? 記憶が曖昧です)に塩コショウなどで簡単に調味をして出来上がったコーンスープは絶品でした。残った絞りかすは少量の小麦粉で練り、まとめて濡れふきんで包むとラップして冷蔵庫へ。こちらは後日のナン作りのための仕込みです。

ご飯を炊くのはそれこそ気合いが入ってました。まずは精米から。そう、精米からです。玄米は冷蔵庫に保存してあります。そしてその日炊く分をその都度小型の家庭用精米機で精米する。20年前でこれは、かなりぜいたくです。通常我々が購入する精米には、製造年月日のようにして精米年月日が印刷されています。コメは精米した瞬間から劣化が始まるのです。だいたいあんな家電を売ってるところなんて……と思って今ネット調べてみたら各社から発売されてました。流行ってるんだ。「道場六三郎監修」なんてのまであるし。

おっと話を戻します。精米したてのコメを水で洗ってジャッジャッ! と研ぐ。そして研ぎ汁がきれいになるまで数回水を入れ替える(あるいはビタミンB1のためにそこそこにしておく)のが普通。ところがその後、家元は細く水道水をかけ流しにしていました。完全に水が透明になるまで実に1時間くらい。戦前生まれの「銀シャリ」に対する執念とはこれほどのものかと感じ入ったものです。で、ザルに上げて水を切る。完璧な炊飯手順です。

そうして炊き上がったご飯はピッカピカに輝いています。コメ粒は周囲に適度なネバりがあって中はシャッキリ。これぞまさに、キング・オブ・銀シャリ! 家元が好きな言葉に「富士と桜とコメの飯」。コメは日本人の心の拠り所です。コメが大好きで、新潟の岩室温泉で「談志の田んぼ」と称して地元の皆さんらと一緒に田植えや刈り取りまでしていました。

弟子や若いお客さんたちが大勢集まったときの定番「冷蔵庫カレー」は有名です。食べ物を無駄に捨てたくないということで、家元は冷蔵庫にある残り物を見境なく鍋に投入したものです。たとえば、黒く変色したバナナ。料理に興味がある人はお分かりの通り、カレーに熟バナナは大正解です。ところがそれにとどまりません。ハム、魚肉ソーセージは歓迎。カマボコ、たくわん、キムチは、まだ大丈夫。あ、もちろんどれも賞味期限は切れてます。この後、海苔や昆布などのつくだ煮や、えのき茸のビン詰とくると味の面にやや不安が出てきます。「こんなの入れてみるか。どうする?まあ、いいやな」と家元が不敵な笑みを見せてエイヤッと鍋に放り込むのは、わりと大量なわさび漬け、水羊羹(ようかん)、どら焼き、カツオの酒盗などなど。無茶な食材たち@賞味期限切れが飛び交い、台所にサディスティックな高揚感が満ちてきます。

ピッカピカに輝く最高級の銀シャリが湯気をたてる横に、得体のしれない不気味カレーがでろでろっとかけられて、ハイ、できあがり。

全員でおそるおそる実食…。う、うまい! なんだこりゃ?

「イケるな!」と無邪気に喜ぶ家元の笑顔が忘れられません。またその魅力に弟子もお客様たちもコロッと持っていかれてしまうんです。うーん。いまだ私も家元から受けたマインドコントロールは解けていないようですねw。

とにかく家元は食べることが好きでした。大食いでどっさり食べるのではありません。気に入った食べ物を大事に食べる。日常のたのしみのひとつに食べることを挙げるのは、誰しも異論のないところだと思います。言い換えると、人生の幸福のうち少なくとも何割かは「食」が占めているわけです。食をおろそかにせず自覚的にたのしむことは、人生の幸福を味わうことでもあります。家元が言ってました。「愛は食卓にある」。いや、これはキユーピーマヨネーズのCMだ。家元が色紙にしたためていた言葉に「幸福の基準を決めろ」。自らの食を大事にすることも、まさにひとつの幸福の基準を満たすことではないか。と、私、立川談笑は思いを新たにするわけです。出家信者の一人としてw。

さて、そんな家元を偲ぶイベント「談志まつり」が命日である11月21日から3日間にわたって開催されます。会場は有楽町よみうりホール。チケット絶賛発売中。

と、今回はまさかの宣伝オチでした。わはは。これでいいのか? いいのだ! チケット完売の際はご容赦ください。m( )m

立川談笑(たてかわ・だんしょう) 1965年、東京都江東区で生まれる。海城高校から早稲田大学法学部へ。高校時代は柔道で体を鍛え、大学時代は六法全書で知識を蓄える。予備校講師など様々なアルバイトを経験し、93年に立川談志に入門。立川談生を名乗る。テレビの情報番組でリポーターを務めながら芸を磨く。96年に二つ目昇進、2003年に談笑に改名。05年に真打ち昇進。古典落語をもとにブラックジョークを交えた改作に定評がある。十八番は「居酒屋」を改作した「イラサリマケー」など。
 
国立演芸場(東京)での独演会9月14日、10月12日、11月12日、吉笑(二つ目)、笑二(同)、笑笑(前座)の弟子3人とともに武蔵野公会堂(東京都武蔵野市)で開く一門会9月21日、10月31日の予定。
立川談笑HP http://www.danshou.jp/ 
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