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古典落語『文七元結』 架空と現実の面白さ

立川談笑

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NIKKEI STYLE

 今回は本業である落語の話をします。採り上げるのは古典落語『文七元結(ぶんしちもっとい)』。数ある落語の中で、面白おかしいのが滑稽話(こっけいばなし)です。これに対して人間ドラマを中心に語るのが人情話(にんじょうばなし)。これはその代表格です。

まずタイトルの『文七元結』。文七とは登場する若者の名前で、元結(もっとい、もとゆい)は髷(まげ)の根元を縛る紙製の細ひものことです。

まずはあらすじから。

腕のいい左官職人の長兵衛は、仕事もせず博打に溺れる毎日です。今日も博打で丸裸にされて家に帰ると、妻から「娘のおひさが行方知れずだ」と聞かされます。夫婦で慌てているところに、使いがやって来ました。「ウチに来てますよ」。

向かった先は、吉原にある「佐野槌(さのづち)」。娘は家庭の窮状を救うため、自ら遊郭に身を沈めるつもりでした。おひさの心に打たれた長兵衛、目を覚まします。

おひさに頭を下げ、「来年の大晦日までに返済すれば、客を取らせない」という温情付きで佐野槌のおかみから50両という大金を借り受けました。これでまた左官職に戻れる。期限までに金を返す見込みは十分にある。これからは真っ当な暮らしをしよう。

夜更けの帰り道、吾妻橋の上で身投げしようとする若者に出会います。聞けば、「客から預かった売掛金を盗られた。この上は命をもって償うしかない」とのこと。盗まれたのは、50両。「とにかく死ぬな」、「いえ、死ななきゃなりません」。押し問答の末、長兵衛親方は50両を叩きつけて立ち去ります。

金を懐に若者が店に帰ると、盗まれたと思った金が届いている。取引先に置き忘れていたのでした。主人が驚いて

「おい、文七。これほどの大金、どこから持ってきた。…もらった?誰に」

「分かりません」

「さあ大変だ。何か手がかりはないか……」

あくる朝、長兵衛親方の家では夜通しの夫婦喧嘩が続いていました。「本当に若い男にくれてやったんだって」「うそつけ!博打ですっちゃったんだろ」。そこへ主人と若者がやってきます。「昨夜の50両をお返しに上がりました」。さらに長兵衛の心意気に感動した旦那が、おひさを身請けまでしてくれた。親子3人が抱き合って泣いた。

これが縁で文七とおひさが結ばれます。店を構えて元結を売り出したところこれが江戸中の大評判になったという、文七元結というお話でございます。

と、これを高座で演じると1時間ほどかかる大ネタです。この演目が今日も人気を保っているのは、江戸っ子の気風(きっぷ)に満ちているからでしょう。「人情噺(ばなし)文七元結」として歌舞伎の演目になっているのも人気の証しです。

ところがこの作品。古典とはいっても、成立は明治期と意外に新しいのです。創作したのは三遊亭円朝。幕末から明治にかけて活躍した、押しも押されもせぬ落語中興の祖です。あまりの偉大さに、人呼んで「大円朝」。余談ですがこの大円朝は言文一致運動の功労者でもあります。円朝人気にあやかった新聞社が、紙面に落語の高座を再現する連載を始めました。読者が望むのは円朝の語り口そのままなので、文章を書く時は必ず文語体という当時の常識を覆す画期的な文体ができあがった。そしてこの奇妙な文体が口語体として二葉亭四迷の「浮雲」につながったという。ウソのような本当の話。

そしてサゲに登場する紙製品としての「文七元結」は、江戸時代はもちろん、現在でも商品として実際に製造販売されています。髷を結うためばかりでなく、水にも強くて丈夫な紙紐として寺社などでも日常的に用いられていると聞きました。定説としては信州飯田の文七という職人が開発して人気を博した商品が「文七元結」で、元禄年間といいますから西暦1700年前後のことだそうです。それに対して落語「文七元結」は文明開化後の明治に作られたもの。つまり円朝の時代としては「誰もが知っているあの商品には、実はこんな由来があったのです」という架空のエピソードだったというワケです。円朝の落語を楽しんだ人々は、「うまいこと噺をこしらえやがった!」と創作力を讃えたか、「へえ。そんな裏話があったんだ」と真に受けたか分かりません。とにかく、元結という生活用品と「文七元結」という商品名が庶民の身近にあった時代と現代とでは、この演目の受け止め方は微妙に違っていると思われます。現に私自身、熊本のお寺で文七元結の現物を見せていただいた時、架空と現実が入り混じる感覚に見舞われました。

さて、この演目の中で最大の難関は、吾妻橋の上で長兵衛が文七に金を与える上での動機付けです。自殺の現場に居合わせたなら、何が何でも阻止したいのは人情です。ところが、その五十両を渡してしまったが最後、かわいい娘が遊郭で客を取らされることになる。「自分だけならともかく、かわいい娘の一生を不幸にしてまで他人を助けるだろうか?」。

この部分の解釈や演出を落語家それぞれが様々な工夫を凝らしています。聴き比べて違いを味わうのも、落語の楽しみのひとつでもあります。

そこで最後に立川談笑版「文七元結」を少しだけご紹介します。

長兵衛は数年前に息子を亡くしています。おひさの兄です。左官職として父から厳しく仕込まれるつらさから、思い悩んで自ら命を絶ってしまいました。以来長兵衛は酒と博打に溺れる暮らしになり、おひさは、自分が男だったら兄の代わりになれたのに女だから、と苦しむ日々です。そしてその夜、吾妻橋の上で出会った若い文七に、川に身を投げた息子の姿が重なり……。

こんなことを書くときはつい(談志だったら何て言うだろうか)と考えてしまいます。

「いかがでしょうか、師匠?」

「んん。そもそも、今は夏場なのに冬の話でもねえだろ」

ああ、しまった……。

(次回は7月15日の予定)

 立川談笑(たてかわ・だんしょう) 1965年、東京都江東区で生まれる。海城高校から早稲田大学法学部へ。高校時代は柔道で体を鍛え、大学時代は六法全書で知識を蓄える。予備校講師など様々なアルバイトを経験し、93年に立川談志に入門。立川談生を名乗る。テレビの情報番組でリポーターを務めながら芸を磨く。96年に二つ目昇進、2003年に談笑に改名。05年に真打ち昇進。古典落語をもとにブラックジョークを交えた改作に定評がある。十八番は「居酒屋」を改作した「イラサリマケー」など。
<今後の予定>都内での独演会7月14日8月18日、吉笑(二つ目)、笑二(同)の弟子2人とともに武蔵野公会堂(東京都武蔵野市)で開く一門会は7月26日、8月28日の予定。
立川談笑HP http://www.danshou.jp/

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