愛を耕す青空挙式 畑や海で、特別な誓い
トマトジュースで乾杯
4月19日、群馬県昭和村の農園。「ご覧ください。オレンジ色はクボタ、青が井関、グリーンはドイツ製です」。司会の女性が紹介するのは、列をなして入場するトラクターのメーカーだ。
その数12台。「おー、すごい。こんなに大きいんだ、格好いい!」と女性たちの歓声が上がる。その横では「こんな台数なかなか見られない。全部合わせると1億円以上だよ」と地元の農家の人たちのため息がもれる。
一見すると農業関係のイベントのようだが、これは結婚式の入場シーン。先頭のトラクターに乗っていた新郎の星野高章さん(39)と新婦の美樹さん(37)が列席者の前に到着すると「おめでとう」と祝福の声に変わった。
友人や知人など集まった470人に結婚の証人となってもらう人前式の形式をとったが、誓い合う場所は畑の上。目の前に広がる自然を前にした式でもある。「先人たちが焼き、耕してきたこの大地で、式を挙げることができてうれしく思います。社会に恩返しできるよう夫婦で努力し続けることを誓います」――。大きな拍手が湧いた。
式当日は農閑期だったため足元は踏み固められていたが、通常はトウモロコシなどが生育する場所。すぐ隣にはビニールハウスも建つ。
新婦の格好もアウトドアならではで、ミニ丈のドレスに合わせたのは、レースを付けてアレンジした長靴だ。「農協で買いました」(美樹さん)
食事も"自然派"。乾杯のトマトジュースに始まり、牛肉や豚肉は火をおこしてバーベキュー。ビュッフェ形式で並ぶメニューの中には、農園で採れたばかりの山盛りのレタスも並ぶ。
新婦の美樹さんはもともとは都内の会社員で、新郎の高章さんがこの農園「星ノ環」の社長。夫妻にとって関係の深い場所ではあるが「普通じゃない結婚式にしたかった」と美樹さん。パーティーの最後のあいさつでは高章さんが「こんなところでのパーティーに付き合っていただいてすみません」と謝るシーンもあったが、列席者からは笑みがこぼれた。
特に新婦の友人ら都内からの参加者の感激はひとしお。新幹線とバスを乗り継ぎ参加した山川千鶴さん(35)、青木麻里さん(28)は「圧巻。予想できないわくわく感があった」と興奮気味に話した。野原美穂さん(33)も「アミューズメントパークで楽しんでいるような感覚」と驚いた。
■増える共同作業、深まる愛
その地にゆかりがなくても、アウトドア結婚式を選ぶ人もいる。千葉県富津市の海沿いで昨年9月に式を挙げたのが、会社員の里見茂樹さん(38)と友梨さん(32)だ。「多くの人数を呼びたかったし、自分で楽器を演奏したり、友人たちがその場で料理を作ったりしたかった。そんな自由がきくのがアウトドアだった」(友梨さん)
海沿いに建つシェアアトリエ「カナヤベース」に、海と建物の間の敷地を借りて実施。その場所では初めての結婚式となったため「友人や親戚みなに準備から協力してもらってできた。夫婦では、私がアイデアを出して、夫がそれを具体化するという形で役割を分担した」と振り返る。
星野夫妻と里見夫妻が、式やパーティーの進行や場所探しなどで手を借りたのが、柿原優紀さんが代表を務める団体「ハッピー アウトドア ウエディング」(東京・渋谷)だ。
サービス開始は約4年前で徐々に依頼が増えており、最近は月に1回のペースで全国で実施している。「アウトドアで式を開くと、夫婦の初の共同作業はケーキカットではなく、式の準備になる。新郎新婦が自ら企画しなければならないため、けんかもよくあるが、終わるとさらに仲良くなっている」(柿原さん)
こうした結婚式が増えていることについて、結婚情報誌「ゼクシィプレミア」の小林隆子編集長は「学生のときに野外フェスなどを楽しんだ世代であり、その両親も『結婚式はこうあるべきだ』という考えがなくなりつつあるため」とみる。
「酔っぱらっちゃってさぁ。こんな結婚式体験したことないよ……」――。星野夫妻のパーティーであいさつした列席者のほとんどはほろ酔いで冗舌だった。中には感極まって男性でも涙がほろり。アウトドアウエディングは身も心も開放的になる。(井土聡子)
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