愛の誓い再び 夫婦の儀式「バウリニューアル」
結婚後時間がたつにつれ、夫婦は一緒にいるのが当たり前になり、マンネリの関係に陥りがちだ。そこでもう一度愛を誓うのが欧米発祥の「バウリニューアル」というセレモニー。シャイな日本人にはハードルが高い面もあるが、家族のイベントの中に取り入れたり、海外旅行先で挙げたりといった方法で広がり始めている。
誓い(バウ)を新たにする儀式
金曜の夜、東京・築地の料亭。「いや、それはおやじの方だよ」「そんなことないって」。家族の笑い声が響く座敷は吉沢光さん(26)ら家族が父、幸次さん(60)のために企画した還暦祝いの真っ最中。午後9時を過ぎたところで、おもむろに光さんが切り出した。「実は今日集まってもらったのは還暦祝いとは別に訳があって……」
静かに流れ始める音楽。「今日はバウリニューアルと申しまして、ご夫婦の誓いを新たにしていただくセレモニーをご用意しました」。司会の女性とともに牧師が入場。場の雰囲気は厳かに一変した。
バウリニューアル(Vow Renewal)は、誓い(バウ)を新たにする儀式。夫婦が結婚後、改めて聖職者ら第三者の立ち会いのもと、夫婦として今後も歩んでいくことを誓う。
欧米発祥 夫婦が契約書にサイン
バウリニューアル発祥の欧米では「離婚の危機を乗り越えた夫婦や、金婚式など節目を迎えた夫婦などが挙げるケースが多い」(日本での啓発団体、バウリニューアルジャパン=東京・中央=の木原亜沙子代表理事)。日本でも昨年芸能人らの挙式が相次ぎ、知名度が上がり始めたという。
セレモニーの手順は結婚式とほぼ同じ。牧師の話を聞き、夫婦が誓約書にサインする。さらに吉沢家ではこれに加え、全員が1人ずつ感謝の言葉を述べる流れに。
「これからは夫婦2人の時間を大切にしてください」。言う方も言われる方も、中盤からは全員が涙目。若い2人の希望と幸福感一色だった結婚式とは、ひと味違う感動が生まれたようだ。
「日本では、夫婦が改めて愛を誓うのは照れくさいという人も多い」(木原さん)。そういう意味でバウリニューアルは日本人にはなじみにくそうな習慣だ。定着には夫婦の儀式にとどまらない日本人ならではの再解釈が必要なのかもしれない。実際、吉沢家のような「子供たちからのプレゼント」という形のほかにも、様々なバリエーションが生まれてきている。
「普段は言いにくいことが言える」
「結婚して13年、仲良し夫婦」という神奈川県茅ケ崎市の会社員、清水謙さん(39)は昨年秋、おい、めいら親族10人を集めてバウリニューアルを開いた。親族の中には複雑な家庭の事情も抱えた子もいて「幸せな夫婦像を印象的な形で見せておきたかった」というのが目的だ。
「普段は改まって言いにくいことも、こういう場なら言える」。海辺のカフェでのセレモニーでは、夫婦のこれまでの歩みから、お互いをどう思っているかまで赤裸々に披露した。
清水さんのように、家族のイベントとして挙げるケースが国内では目立つ。ただ実際挙げてみると「自分たち夫婦にとっても改めて本音を再確認できる貴重な機会だった」と清水さん。今では「これからは夫婦2人でも、10年おきくらいにやろうかな」と思うようになった。今後は夫婦2人でのセレモニーも増えるかもしれない。
ハワイなど旅先で挙げる夫婦が多数派
現在のところ多数派は、ハワイを中心に旅先で挙げる夫婦だ。旅先の解放感と、旅行記念という名目がシャイな日本人の背中を押すようだ。
ワイキキビーチに面したホテル、アウトリガー・リーフ・オン・ザ・ビーチでは週2回、ビーチで宿泊客のバウリニューアルを催す。フラなどハワイらしさを交え愛を誓うセレモニーは幅広い世代から人気で、1日約10組の定員は毎回ほぼ満員。日本国内とは打って変わって「家族旅行で来て夫婦だけこっそり参加する人もいる」(運営会社)という。
婚礼大手のワタベウェディングもハワイのチャペルでのバウリニューアルをプレゼントするキャンペーンを実施。1月末から参加者を募集したところ想定を大きく上回る応募が集まった。「海外で結婚式を挙げたかったけれどできなかったので」という声も多く、結婚式のやり直しという面もあるようだ。
国内でも徐々にプランを販売する施設が増えている。ホテル椿山荘東京では一昨年に販売を開始したが、当初はまばらだった問い合わせが月2~3件まで増えている。
ホテルのチャペルで結婚式と同様のセレモニーを挙げて、5万7750円。結婚式に比べればずいぶん手軽だ。実施施設が増えれば、結婚記念日からけんかの仲直りまで、もっと気軽に「やり直し」にトライできるようになりそうだ。(高倉万紀子)
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