「低価格で4つ星以上」 食べログ人気店の実力
書き込みに「至高のとんかつ!」
バーン、バーン。平日150人が訪れるという満席の店内にはハンマーで肉をたたく音が響き渡る。席数はカウンターのみ13。ついさっき席についた20代のカップルは、会話をやめて驚いたようにカウンター越しの調理場を見つめる。目の前で手際良く進む調理は臨場感であふれている。
JR八尾駅(大阪府八尾市)から徒歩5分。商店街の一角に、とんかつ店「マンジェ」はある。食べログ上では、「至高のとんかつ!」や「絶品」といった言葉が並ぶ。
店長の坂本邦雄さん(57)はホテルのフレンチレストラン出身。その経験から、とんかつはフォアグラやバジルなど洋風素材を取り入れたものも並ぶ。定食に付くみそ汁も、タピオカが入り洋風スープのようだ。
とんかつの調理は全て坂本さんがする。「店長が直々に作ることで、来店客に安心感を与えることができる」(坂本さん)からだ。ただ、キッチンでは無言を貫く。「ほんとは話す
のが大好きなんだけど、気が散っておいしい料理ができないんだよね」
定食は約35種類用意し、価格はほぼ1000円台。昔からのなじみで、毎日50キログラム肉を買っていたら安く仕入れられるようになったという。
「飲食店は味だけでなく雰囲気も良くないと飽きられてしまう」との思いから、内装にも力を入れる。照明は明るさを抑えているほか、机は黒く光沢のある素材を使用。おしゃれな雰囲気で、女性客が半数程度という。
気さくな店長 弾む会話
次に訪れたのは東京・江古田にあるカフェ「パーラー江古田」。細い道沿いにある店舗はかなり控えめな印象だ。食べログでは味はもちろん、「気さくな店長」を評価するコメントが並ぶ。店内は、カウンター席4つに、2人掛けテーブル席が1つ。毎日、50人ほどが利用するという。手前にはフランスパンやくるみパンなど約30種類のパンが並び、香ばしいにおいに包まれている。
「ここに来るのは初めて? どんなパンがお好みなんですか? ちょっと変わったのが食べたいなら、黒コショウ入りのがおすすめですよ!」「あ、久しぶり! 最近何してたの? お子さんは元気?」「飲み物はどれにしますか? 今日は涼しいから、温かいのが良いんじゃないですか」。店長の原田浩次さん(40)が次から次へとお客さんに声をかける。すごい勢いで話しかけられ、人によって好みは分かれそうだが、「コミュニケーションをとって、一番気にいる商品を手にとってもらいたい」(原田さん)という。
「単価2000円未満で4つ星以上」は全国に100店
飲食用にはサンドイッチを提供。「チキンとまいたけのオーブン焼き」(ドリンク・サラダ付き、980円)や「季節の野菜のオーブン焼き」(同、930円)など約10種類のパンから好きなものをチョイスできる。
食べログで2000円未満で、かつ4つ星以上の評価の飲食店は全約77万店中、100店程度にとどまる。うち2店舗は、一方で無口な、一方で話し好きな店長が切り盛りしていた。一見すると真逆なスタイルだが、全力で客の期待に応えたいという気持ちは相通じるものがあった(評価は3月20日時点)。
匿名の口コミ、正確さが課題
食べログは消費者の来店動機にどれくらい影響を与えているのか。マンジェに来店した40人に聞いた。
「どのような方法でこの店舗を知ったか」との問いには大半の人が友人や家族ら身近な人から情報を得ていて、食べログで店を知った人は3人にとどまった。しかし、「来る際に食べログを参考にしたか」との問いには4割の16人が「はい」と回答。「普段から食べログを参考にする」という人も18人いた。消費者が店を知るきっかけには必ずしもなっていないが、詳しい情報を得る際に力を発揮しているようだ。
ただ、正確な情報が載っているかについては疑問の声も。パーラー江古田の原田さんは「匿名性が高い来店客の口コミで、メニューの値段などで店に関する誤った情報が掲載されている場合がある。店としては、営業時間や地図だけ載せてくれれば十分」という。
風評被害をいかに防止するかも課題だ。「見知らぬ人に悪評を書かれてショックを受け、今はサイトを見られなくなった」と話す。
食べログは匿名性が高いだけに投稿者の責任感も希薄になりがち。見る側も投稿を見比べるなどでより正確な情報を得る必要があるだろう。(出口広元)
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