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「アンガーマネージメント」を身につけよう

~ママ世代公募校長奮闘記(20) 山口照美

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NIKKEI STYLE

講師は、風船を取り出して私たちに尋ねた。

「最近、ストレスを感じることは何ですか?」

「部屋が片付かないこと」と答える。引っ越しを控え、家の中はひっくり返っている。「そのイライラは、5段階でどのぐらいですか?」と問われ「3ですね」と返すと、講師はポンプで3回、シュッシュッシュッと紫の風船に空気を入れた。他の人にも尋ねる。「朝起きられない」「子どもの夜泣き」「人間関係でのトラブル」……シュッ、シュッ。その度に、空気が入れられた風船はふくらみ、今にも割れそうだ。

講師はそこに、ハチを描いた紙を持ってきた。お尻には、本物の針がついている。

「この、ストレスでパンパンにふくらんだ風船に、かわいいハチがやってくるんです。このハチはちょっとした『きっかけ』。ハチがつついただけで、この風船がパーン!と……今日はやりませんけど(笑)、これが『キレる』という状態を引き起こすんですね」

先日、夫にキレてしまった場面を思い出して赤面する。仕事のストレス、引っ越し準備のストレス、健康面からくるストレス。全部を同じ風船に入れたあげく、ささいなことでキレてしまう。安心して自分をさらせる夫相手だからとは言え、彼の言動や行動が「ハチの一刺し」になっていることが多い。

「怒り」という感情を見直す

「アンガーマネージメント」という言葉に出会ったのは、校長として着任した直後だった。子ども達が自分の思いをうまく伝えられず、暴言や暴力に訴える場面は、どこの小学校でも見られる。

ケンカを仲裁し、根気よく話し合いをさせて「ごめんね」「いいよ」と言わせて解決する。小学校の現場ではずっと行われている解決法で、その中で他者との関わり方を覚えていく。

その一方で、子ども自身の感情コントロールを教えるのに、いい方法はないのか探していて出会った。さっそく、「アンガーマネージメント研究会」に連絡を取って、スクールカウンセラーや刑務所・少年院等での更生指導の実践を持つ高野光司先生 に来ていただいた。

風船の場面は、中学生向けに実施している授業の「つかみ」の部分だ。子どもにも、そして大人にもわかりやすい。

研修は「そんなこと本に書いてあるから、聞かなくてもいい」というものではない。仕事をいったん置き、集まって研修を受けることそのものに「立ち止まって考え、振り返り、よりよい手立てを考える」時間として意味がある。今回は校内研修に近隣校からも参加があり、和やかな雰囲気で学びを共有できた。

高野先生は、「風船を限界までふくらませてしまわない方法を考えてください」と投げかけた。少しずつ空気を抜く、ストレス解消の方法を持つことも大事。でも、こんな方法もありますよと風船を3つ取り出した。

「部屋が片付かないストレスは、『生活の問題』ですよね」と、紫の風船に3回空気を入れる。「お子さんの夜泣きは、『家族の問題』かな」と、別の風船に2回。さらに別の風船に「それは『友だち関係の問題』としましょう」とシュッシュッと空気を送る。大きさの違う風船が、3つできる。割れそうになるほどには、ふくらんでいない。

「すべてのストレスを同じ風船に入れるのではなく、分けて整理する。そうすれば、少し余裕がうまれますよね」

そこで、風船の絵を描いたワークシートを提示し、子ども達のストレスを「友だちのこと」「家族のこと」「生活のこと」「勉強のこと」「部活のこと」と分けて書かせる方法を紹介してくださった。

「アンガー」=「怒り」という感情は目立つから問題になるだけであり、その下には「さびしい、悲しい、イライラする」などのいろんな感情が入り乱れている。 むしろ、怒りとして表に現れない部分の感情にこそ、気づく必要がある。「むかつくねん、あっちいけ!」という言葉の裏に「さびしいねん、構ってぇや」というメッセージを感じることがある。もやもやした感情を整理し、客観視する手段を教えることで、「アンガーマネージメント」ができるようになってくる。

この話は、私自身に素直に響いた。すべてのストレスを1つの風船に入れないで、分ける。抜く方法を、意識する。子ども達に、どうにか教えてやりたい。ここからの実践は、チーム敷津で考えていくことだ。今後の方向性が、はっきり見えてきた研修だった。

「感情語」を豊かにする

「中学生に感情を表す語を尋ねると、ほとんど出てこない。『お腹が空いた』『眠い』なんて書いてある。それは感情ではなく『体の感覚 』ですよね」

高野先生は、笑いながら話してくれた。感情を表す語を知らない。知らないから、自分の中に渦巻くもやもやを整理できない。相手に伝えることができない。教室で見られる場面を、いくつか思い出す。

「若い子たちは、情報のやりとりはするけれど、感情のやりとりはしない。『あの店おいしいらしいよ』『あのお笑い芸人、おもしろいよね』という情報交換はするのに、『こんなことがあって寂しいんだ』とか『つらいんだ』という感情を出し合わないんです」

この話も、興味深かった。感情を表して、相手にひかれるのが怖い。無難に、あたりさわりなく。場の空気を盛り下げないように。……そうしているうちに、誰にも言えない感情が風船にたまっていくのかもしれない。

他者と感情のやりとりをする以前に、自分の感情に名をつける能力が無いのも問題だ。言葉の力を育てることの重要性を、改めて感じた。

塾の講師時代、物語文の読解に力を入れていた。受験国語指導は、心を育てられないという偏見があるが、違うと断言できる。短い時間に圧倒的な種類の問題文を解くことで、たくさんのシチュエーションと感情の関係を知ることができる。

子どもが主人公のこともあれば、大人や昔の人や海外の人が登場人物のこともある。場面設定から想像する、表情や風景描写を読み取る、会話の裏にある本心を読み取る。

母 「もう宿題はやったの」  子 「あたりまえじゃん」

これだけのセリフでも、前後の描写や人物設定で隠された本音は異なる。ゲーム好きな小学生という設定であれば、やっていないのをごまかすための「あたりまえじゃん」かもしれない。思春期の男の子と母親であれば、子どもと話すきっかけに「宿題はやったの」と尋ねている可能性もある。会話の前後に、心情を表す描写をくっつけると、印象は変わる。

母親は洗い物の手を止めることなく、背中を向けたままたずねた。「もう宿題はやったの」。タカシは、右手にもった満点のテストをぎゅっと握り、つぶやいた。「あたりまえじゃん」

たったこれだけの描写から、心情を読み取り、設問に答える。母親の忙しさ、子どもへの無関心さを読み取る。ほめてもらいたくて帰ってきた子どもの、失望を読み取る。その練習を多種多様な物語文でトレーニングする。感情語が増える。相手の気持ちを読み取る想像力が鍛えられる。立場を変えて物事を受け止める複眼視点が身につく。

小学校の国語では、より深いレベルでじっくりと1つのテキストに取り組む。また、実際に友だちや教師と関わる中での生きた感情に向かい合える。ソーシャルスキルトレーニング(SST)については、学校の日常すべてが教材だと言える。

親こそ身につけたい「アンガーマネージメント」

「母親が赤ちゃんに『これは"犬"だね』と言葉を教えるように、今の気持ちがどんな言葉なのか、ひとつひとつ教えてあげてほしい」

ゲームに負けて、「悔しい」んだね。

友だちとケンカして「さびしい」んだね。

感情語を覚え、適切に使えるように練習する。言葉で感情を表せるようになれば、もっと人とつながれる。今は、SNSでの文章力も要求される。LINEのスタンプも、感情表現の支援ツールととらえれば面白い。そこから、先に進んで対面コミュニケーション能力に近づける手立てを、教育現場は考えていく必要がある。

研修の後、養護教諭の先生から表情と感情を連動させるツールや掲示物を教えてもらった。今、全校児童が書いた学校文集「敷津の子」を編集している。今年度は、国語辞典を一人一冊、教室に備えることもできた。言葉を増やし、書く、そして話す力を育てる。

吐き出せない感情で心や体を病んだり、暴力や暴言に頼ったりすることなく、周りとつながれる社会人になってほしい。

そのためには、大人が率先して実践することも必要だ。

教師やサービス業、介護職や看護職などの対人仕事は「感情労働」と呼ばれる。自分の感情をコントロールすることを、要求される。それでも、子どもや客の心ない言葉に、傷つかない人はいない。笑顔の裏で、風船には少しずつストレスがたまっていく。

心の風船をストレスでいっぱいにして、帰らない。子どものちょっとしたミスを「ハチの一刺し」にしないように。自分の考え方のくせ、怒るパターンを知る。傾向がわかれば、対策ができる。

心に風船のイメージを持って「あっ、今、風船に空気が入ったな」と感じることだけでも、少し自分を客観視できる。

仕事、家事、育児、人間関係……悩み多き共働き夫婦にも、「アンガーマネージメント」の考え方はおすすめだ。夫の聞き上手に、私は救われている。私も同じ役割を返さなければと、反省する。

学校でイライラしている子どもは、家庭でのストレスを抱えてきている。背中で聞くのではなく、顔を見て5分でも話を聞く。一緒にお風呂に入る。くだらない話をする。家族でゲラゲラ笑う時、お互いの心の風船からシュッと空気が抜けるのを感じる。

娘の「こそばして~(くすぐって)」は、「風船の空気を抜いて~」と同じ意味なのかもしれない。よし、パソコンを閉じて、子ども達の爆笑を取りに行こう!

山口照美(やまぐちてるみ)
同志社大学卒業後、大手進学塾に就職。3年間の校長経験を経て起業、広報代行やセミナー講師、教育関係を中心に執筆を続ける。大阪市の任期付校長公募に合格、2013年4月より大阪市立敷津小学校の校長に着任。著書に『企画のネタ帳』(阪急コミュニケーションズ)『売れる!コピー力養成講座』(筑摩書房)など。ブログ「民間人校長@教育最前線レポート」(http://edurepo.blog.fc2.com/)も執筆中

(構成 日経DUAL編集部)

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