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退職公募校長の置き土産

~ママ世代公募校長奮闘記(5) 山口照美

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NIKKEI STYLE

大阪市の公募校長が、3カ月で退職した。私は一緒に研修を受けた仲であるし、38歳の彼とは1歳違いなので親近感を持って接していた。もちろん、「3カ月で辞めた」事実は当事者には許せないだろう。それにしても、報道の激しさには驚いた。インタビューや映像は一部が強調され、彼が本当に訴えたかった「民間人校長システムの是非」についてはかすんでしまった印象だ。

同期の民間人校長の一人として、彼の退職が突きつけた課題は、自分の課題そのものだ。報道を受けた意見にも「他の民間人校長はどうなの?」というものがあった。1学期を終えようとする今、彼と同じ小規模校に配属された立場から、現状と課題を書いてみようと思う。

民間人校長は基本的に「招かれざる客」

民間人校長が改革に成功すると、困る人達がいる。新しいやり方の成功は、現在と過去の否定につながるからだ。民間人校長の存在そのものが、迷惑で不快だという人がいて当然だ。実際、現場研修で訪れた学校では、目も合わせてくれない、挨拶もしてくれない教職員の方がいた。「苦労して築いてきた自分達のやり方を、ポッと出の素人に変えられてたまるか」……。そんな声が聞こえるようだ。

かつて私も、同じ感情を抱いたことがある。

私が中規模塾で校長を任されていたころ、宝飾業界でバリバリの営業マンが転職してきて、別の校舎の校長になった。授業が好きで、子どもが好きで、教務職から持ち上がって管理職になった私は、不愉快だった。

「塾は子どもを伸ばして口コミ起こしてナンボ、営業トークだけうまくても塾運営はできない。できる子だけ大事にして、できない子を『お客さん』呼ばわりして営業成績だけ稼ぐ校長に当たった子どもはかわいそうだ」

お酒を飲んで、よく愚痴っていた。

実際、その人がどんな人柄でどんな校長だったかは、今も知らない。思えば、臆測だけで怒っていた。失礼な話だ。

かつて他人に投げた言葉が、自分に刺さってくる。

「教員免許も持ってないヤツが」「教頭を経験しないとやっぱりダメだ」「教育は数値管理できるものじゃない」

幸い、配属先の教職員はみんな温かかった。それでも、厳しい視線を向けられているような気がして、常に焦りがあった。子どもや教職員に迷惑をかけられないという一心で、恥を捨てて質問をしまくる。

着任時は、子どもの安全に関わることを覚え、注意力を切らさないようにするだけで精いっぱいだった。

その過程で、民間人校長の強みは「知らないこと」にこそあると気づいた。

私が投げる素朴な疑問が、学校の課題を浮き彫りにする場面があるのだ。

「ヒト・モノ・カネ」にまつわる手続きの山

大阪市の教育改革の1つに、「校長経営戦略予算」がある。校長がやりたいことに「自由に」使える予算が配布されるという。基本配布はクラス数に応じて決まる。職員室から運動場が見えないため、モニターカメラをつけたいと申請を上げる。予算が配布されたので、いざ防犯用カメラを買おうとして驚いた。

学校現場では、大きな物を買おうとすると、3社以上の見積もりを取らなければならない。しかも、大阪市の指定業者から選ぶ。防犯カメラの見積もりを取ったら、3社それぞれが違う商品とシステムで見積もりを出してきた。

通常なら「予算と商品メリットのバランス」で決定するだろう。A社は安いけれど、カメラの性能がイマイチだ。B社の防犯カメラは高いが、録画機能もあって耐久性が高い。C社は欲しいレベルの機能を満たしており、価格はAとBの間。予算内で収まる。

この場合、バランスの取れたC社製品を選ぶ人もいるだろうし、耐久性にこだわって高くてもB社にする人もいるだろう。民間ならそうだ。しかし、学校では「容赦なく一番安いA社」を選ばなければならない。「安いだけの業者を選ばないといけないせいで、チャチな設備になってしまうケースもある」と聞いて、素朴に思う。特定企業との癒着を避ける意味はわかるが、それにしても複雑化し過ぎだ。税金のムダを減らすための「最安見積もり」かもしれないが、ネットで買えばもっと安いものもある。

各学校に団体用クレジットカードを作って、基本はネットで物を買えばいい。記録が残るし、キックバックができないので不正は起きにくい。ネットショップならすぐ来るし、アマゾンや楽天ならポイントもたまる。そのポイントで、図書室に本を増やせたらすてきだ。

指定業者を守る意味もあるのだろう。それなら、サービスと価格のバランスでネット業者と勝負すればいい。そのためには、「一番安い業者を選ぶ」というルールを解除する必要がある。

「なんでこんなに面倒なんだろう?」と気づき、教職員に質問をぶつけ、改善策を考える。私が見つける問題点に、教職員も昔から気づいてはいる。改善を訴えても行政が動かないうちにあきらめる。もしくは忙しさに追われて、忘れる。

民間人校長に意義があるとすれば、「やっぱりこれはおかしいんだ、だったら変えよう!」と教職員の意見を束ねて訴え、変えるまでしつこく粘ることだ。もしくは、現場レベルで変えていくことだ。

ここまで書いて、言うのは簡単だ、とため息が出る。

「これはおかしい」を伝えたくても、アイデアを出す窓口がない。関係がありそうな部署に伝えたところで、「検討します」の一言で終わってしまう。実際、いくつか行政側に提案したが、何ひとつ変わらない。変える気がないのか、変える暇がないのか。

現場レベルで解決しようとすると、忙しい教職員に遠慮があって頼めない。修学旅行先は、2年先まで行程が決まっていた。学校行事も人事もガチガチに固まっている中に、知識も信頼関係も丸腰の民間人校長が来て、一体何ができるのだろう。

本気で私たちに改革を求めているなら、配属先の学校そのものを「改革推進指定校」にしてはどうか。

「指定校には民間人校長が来ます、その代わり『ヒト・モノ・カネ』の自由度を高くします、スケジュールもある程度は動かせます、大きな改善に人手が必要なら送り込みます」

手続きを簡素にし、金銭の使い方を柔軟にすることで、ようやく「校長経営戦略」の文字に意味が出てくる。それなのに、手続きは相変わらず古いままだ。その点を、退職した校長は「『新しい風』と言うけれど、改革の具体的なビジョンが見えない」と指摘していた。

民間人校長による「オリジナル改革」は不要!?

「市長が公募せよと言いました、制度を慌てて作って、格好のつく人数を選びました。市長が辞めたら、この制度は無くなるでしょう。無難に任期を務めてもらえれば結構です」

行政側には、こんな本音の人もいる。もしかしたら、大多数かもしれない。着任当初は意気込んでいたが、スローペースに慣れてきた自分がいる。

来年度、「公募校長のくせに土曜授業を増やさないのか」と、おそらく私は行政側に叱られると思う。

保護者に聞くと、習い事があるので困るという。私も保育園に子どもがいて、平日が埋まっているからわかる。習い事のチャンスは、土日しかない。そして、多くの習い事が土曜日に集中している。

サッカー選手を目指してプロ志向のサッカークラブに通う子、3歳からずっとピアノを習っている子。……彼らのチャンスを奪っていいのだろうか。

また、土曜出勤にするなら、平日に担任でも休める施策とセットにしてほしい。最初から平日のどこかで担任が休めるような、「スクランブル授業」の日を作ってはどうだろう? 最低でも月に1度、または2週で1度。

私の配属された小学校は、1学年1クラスの単学級のため、担任外の先生に習う機会はいい刺激になるだろう。また、複数の目でクラスを見ると、トラブルの種を見つけやすくなる。子どもたちには、相談しやすい先生が増えるメリットもある。

ベテラン教職員が「ありえない」「無理!」という案でも、出し続けることに意味がある。今の私には、大きく変えるだけの力はない。バックアップもない。それでも、素朴な疑問を投げ続け、教職員と話し合って解決策を導くことを諦めない。そのために、私はこの学校に呼ばれたのだと思っている。

早起きにも給食にもすっかり慣れた。学校のプールデビューもした。戻りたくて戻った教育の現場は、楽しい。しかし、同期の退職に、改めて民間人校長の意義を突きつけられた。「任期終了まで無難に『こなす』だけでいいのか」。1学期が終われば、3年の任期の1/9が終わってしまったことになる。彼の残した置き土産は、私にとって「夏休みの宿題」だ。

何をしたかったのか、何ができたか、なぜできなかったのか。

ふりかえって整理して、また次の課題に向けてしつこく粘るしかない。

山口照美(やまぐちてるみ)
同志社大学卒業後、大手進学塾に就職。3年間の校長経験を経て起業、広報代行やセミナー講師、教育関係を中心に執筆を続ける。大阪市の任期付校長公募に合格、2013年4月より大阪市立敷津小学校の校長に着任。著書に『企画のネタ帳』(阪急コミュニケーションズ)『売れる!コピー力養成講座』(筑摩書房)など。ブログ「民間人校長@教育最前線レポート」(http://edurepo.blog.fc2.com/)も執筆中

(構成 日経BP共働きプロジェクト・日経DUAL編集部)

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