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「まんじゅう怖い」を現代風に改作したら……

立川談笑

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NIKKEI STYLE

 「まんじゅう怖い」は、「寿限無」「時そば」と並んで最も有名な古典落語の一つといえます。児童向けの読み物や絵本にまでなっていて、実際に高座にかけられる機会も多い、人気の一席です。今回はご存じ「まんじゅう怖い」を、落語家目線で掘り下げてみます。

楽屋では「まんこわ」の略称で通るくらい、頻繁に高座にかけられる落語です。まずはざっとあらすじから。

町内の若い衆が「ほんとうに怖い虫の話」で盛り上がっていると、「俺には怖いものなんかねえや」と嫌われ者が水を差します。それでも問い詰めてみると、「まんじゅうが怖い」と。さあ、みんなはこの男を怖がらせてやろうとまんじゅうを山のように買ってきましたが、逆にすっかり食べられてしまった、という笑い話。

20分ほどの軽い落語ではありますが、にぎやかな雰囲気でなおかつ手堅くウケる。落語家にとっては嬉しい演目です。また同時に、時間調整がしやすいことも重宝される理由かもしれません。大人数がそれぞれにエピソードを披露する部分を、人数を少なくすれば時間を縮められる。逆にたっぷり盛り込めば時間が長くなる。上方落語ではあれこれをすべて盛り込むと、なんと1時間近い大ネタになるといいます。

そして意外な言葉の使い方や古めかしい表現がずいぶん残っているのも、この演目の特徴です。

まず大勢の若い衆が集まる理由づけ。無駄話の延長で「まんじゅう怖い」に発展させますから、目的となるべき話題が明確にあってはいけないし、酒を飲んでもいけない。なんとなく集まるのです。先代の柳家小さん師匠は、この集まる理由を「今日は俺の誕生日だから」としていました。

古典落語に誕生日という言葉が登場するのは珍しいですね。数え年だった江戸時代には、お正月に全員がひとつ年をとったはずです。個々人の誕生日なんて意味がなさそう。とはいえ一方で、人の生年月日が記録に残っているということは、それなりに誕生日も特別に扱っていたのかもしれません。ううむ。今回は謎のままにしておきます。

次いで、怖い虫のエピソードを言い合う冒頭。「ガキの頃よく言ったもんじゃねえか」という前置きつきで、「産まれたときの胞衣(えな)を方角を決めて埋めて、その土の上を最初に通った虫が怖くなる、なんてな」。こんな風習が昔はあったんですね。

調べたところ、江戸時代どころか古代からの日本の古い風習だそうで、歴史や意味あいなどを含めてかなり奥深い話に発展しそうです。とても私の手に負えないので、深追いはしないことにします。おっと、誕生日に続けて連続空振り。ツーストライク。

怖い虫として、ヘビ、カエル、ナメクジの3つが挙がったところで「三すくみそろっちゃった」というセリフがあります。三すくみとは3者の強弱関係が連環した、ジャンケンのような関係です。ヘビはカエルを食べる。カエルはナメクジを食べる。そしてナメクジはヘビを……食べませんねえ。

ナメクジはその粘液でヘビの体を溶かすのだと、かつては言われたんだそうです。きっと当時の常識だったのでしょう。それにしても「知ってた? ヘビってさ、ナメクジに触ると体が溶けちゃうんだって!」なんて豆知識が、いったいどんな事情があると世間一般に広まるのか。しかも、たぶんウソ情報なのに。

さて、怖い虫をみんなが言い並べたところで登場する嫌われ者のセリフ。「どいつもこいつも、だらしがねえ。人間は万物の霊長ってんだ」。大上段に振りかぶった大げさな言い回しです、万物の霊長。生きとし生けるものの中で人間が一番偉いのだ。思いあがった感あふれるこのセリフも、この嫌われ者が言い放つにはふさわしい雰囲気をまとっています。しかし、改めて見つめてみると、生物学の「霊長類」もずいぶん思い切った言葉のように思えてきます。

そして「まんじゅう怖い」の構成で私が注目している点があります。それは「ライブ感の底上げ」の仕掛けがあることです。私の造語ですが。まんじゅうを思い出して怖がっている男の目の前に「実際に」買ってきたまんじゅうを出して驚かせる、という部分。

「よそうよ」「やっちゃおうぜ」と、迷ったあげくに思い切って本物のまんじゅうを買い集めるくだりでは、聴いている観客も「本物」の登場によって思わず前のめりになる効果があるようです。大げさにいうと、落語の世界にさらに深く入るというか。

もちろん、本物もなにも、座布団の上に座った落語家が口先で何か言ってるだけなのですが。仮想世界での実体験を強調することで、現実味が増す。そんな錯覚を生む手法として「ライブ感の底上げ」と称してみました。とても落語らしいというか、したたかな仕掛けです。

最後に私の改作を披露します。名付けて「まんじゅう(とか)怖い」。「温泉まんじゅう、栗まんじゅう、そばまんじゅう、薄皮まんじゅう……」という従来のおいしいまんじゅうたちを、そっくり現代のスイーツに置き換えたものです。

「ようかん、きんつば、カスタードプリン、なめらかプリン、生チョコ、いちごのミルフィーユ、いちごのズッパイングレーゼ……」。具体的なメーカー名や店舗名がバンバン飛び出すゴージャスな一席です。そうなるとサゲも当然変わってきます。

「うーん。ここらで渋い茶が一杯、こわい」。では済まない雰囲気ですから。そこは、こうなります。

「うーん。ここらでスタバのキャラメルフラペチーノがダブルでこわい」

おあとがよろしいようで。

(次回は12月2日の更新予定)

 立川談笑(たてかわ・だんしょう) 1965年、東京都江東区で生まれる。海城高校から早稲田大学法学部へ。高校時代は柔道で体を鍛え、大学時代は六法全書で知識を蓄える。予備校講師など様々なアルバイトを経験し、93年に立川談志に入門。立川談生を名乗る。テレビの情報番組でリポーターを務めながら芸を磨く。96年に二ツ目昇進、2003年に談笑に改名。05年に真打昇進。古典落語をもとにブラックジョークを交えた改作に定評がある。十八番は「居酒屋」を改作した「イラサリマケー」など。
<今後の予定>都内での独演会は年内が12月5日、新年はゲストも参加する「新春談笑ショー」1月12日に開かれる。吉笑(二ツ目)、笑二(同)、笑坊(前座)の弟子3人とともに武蔵野公会堂(東京都武蔵野市)で開く一門会は11月27日、12月25日の予定。
立川談笑HP http://www.danshou.jp/

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