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ロケで体験した「賽の河原」

立川談笑

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NIKKEI STYLE

 「賽(さい)の河原」をご存じでしょうか。死後の世界で亡者たちが河原で石を積んでいると、横合いから鬼がやってきて意地悪をするというあの河原です。日本には実際に賽の河原と名付けられている場所がいくつもあります。そのうちの1カ所にロケで行ったときの話をします。お盆の時期のことでした。

当時の「とくダネ!」(フジテレビ系)では日本再発見的な話題を放送することがありました。題して『忘れられた日本』。日本の懐かしい風景を紹介する、季節限定のコーナーです。全国放送の情報番組が刺激的な最新情報ではなく、日常生活の中に心温まる発見と感動を求めるという、民放としては勇気ある試みでした。私自身も大好きでしたし、視聴者にも好評でDVDにもなりました。

内容も映像もクオリティーの高いものが求められ、担当するスタッフも厳選されていました。時期が近づくと、大御所と呼ばれるカメラマンやベテランディレクターたちがご指名を受けて大いに奮起する。また一方で、若いディレクターが意外にも抜擢されて目の色を変えて右往左往する。あの頃の情熱や、晴れがましくもドキドキした感覚は楽しかったなあ。

海に面したその小さな集落に足を踏み入れると、家々には亡くなった家族を迎えるための高い竹飾りが立てられていました。その地域のお盆ならではの風情です。そして海沿いの道を数百メートルほどたどると、今回の現場、つまり賽の河原があります。車はとても入れない、人がやっとすれ違うほどの細い道ですが、しっかりと舗装されていました。賽の河原に通う目的のためだけに整備されたかのように思えるほどです。

炎天下、スタッフ一同で撮影機材を担いで海沿いの道をてくてく歩いて賽の河原まで何度も往復することになります。荷物の中ではクレーンが難物でした。美しい映像を撮るための特別な機材ですが、小型の組み立て式とはいっても頑丈な三脚とウエイト(おもり)などかなりの重量があります。

一同がぜえぜえいいながらたどり着いた賽の河原は、岩壁に掘られた穴のような祠(ほこら)でした。真夏の海と空が目の前に広がり、波打ち際の岩場には石積みが立ち並び、鮮やかな色合いの風車がカラカラと回っている。まさに賽の河原のイメージそのままでありながら、日差しが眩(まぶ)しすぎるのが少し意外でもあり。

岩穴の中は広さ8畳くらいでしょうか。壁沿いにはずらりとお地蔵様の一群が。そしてその周囲に積まれたお供物の数々を見て、ハッと身を固くしました。今現在大人気のTVキャラクターの人形たちです。ここは過去の遺跡でも古き良き史跡でも何でもない。現在生きる人々にとっての祈りの場であり、民間習俗がまさに息づいている現場なのです。改めて一同はこの場所に敬意を払うと同時に、とにかく失礼がないようにしようと気を引き締めました。

ロケでは印象に残る出来事がいくつもありました。

クレーン撮影の映像をもっと効果的にしたい。「今よりもっとカメラをぐーって下げたいんだ」とカメラマンが付近の道路わきを掘ると、古銭(1銭硬貨だとか)がザクザク出て来ておののきました。

「この辺りを掘るのは、よそう」

すべての撮影が終了した日。まだ陽は高いこともあり、ベテランでも元気なカメラマン氏が海で泳いだそうです。

「よーし、俺は今からここで泳ぐぞ!」

「ここで、ですか?」

「当ったり前だろ。こんなきれいな海を目の前にして、ずっと我慢してきたんだ」

「賽の河原のそばですよ! お彼岸の中日ですよ!」

「ちゃんとお守りがあるから心配ないって」

手首のミサンガ(当時流行ったカラフルな手織り帯)を誇らしげに見せつつ海面に身を躍らせたカメラマン氏。

その後、その時の様子を彼は静かな口調で話してくれました。

「海に飛び込んでザバッと水面に上がって。見たらもうミサンガがなかったんだ」

ぞぞ、ぞーーーーっ!!!

こうなると、帰り道にディレクターが高熱で苦しんだという話ですら何やら怪しげな雰囲気を盛り上げることになります。実際、こまごまとしたトラブルや奇遇が重なるロケでした。

そんなこんなで迎えた、オンエア当日。

「いろいろあったんだから、生放送もただじゃ済まないぞ」

なんて脅かす人がいましたが、私は気にも留めませんでした。

コーナー1本目のVTRが終わって、軽く一息。スタジオのモニターには、軽快なBGMとともに提供スポンサーを紹介するための短いVTRが流れていました。その時です。

映像が不意に途切れて、画面全体が数秒間真っ黒になっちゃった。TV業界でいう「くろみが出た」となったら大問題です。「ここで来たか!」とゾッとしました。

提供企業名の文字スーパーが出ていたため、「くろみ」には至らずに事なきをえたのですが、あれは本当に驚きました。結局、デジタルの電気的な何とかのトラブル(←分からなすぎだ)ということで決着したようですが、編集点でも何でもない箇所で映像が途切れる理由が分からないと皆が口をそろえていました。

冷静に見つめれば単なる偶然が重なっただけにすぎません。それでも、それはそれで寂しい気もします。なんとも難しい。ただ、毎年お盆を過ぎた今頃になると、あの明るい海辺では今日もくるくると風車は回っているのだろうな、と思い出されるのです。

(次回は9月9日の予定)

 立川談笑(たてかわ・だんしょう) 1965年、東京都江東区で生まれる。海城高校から早稲田大学法学部へ。高校時代は柔道で体を鍛え、大学時代は六法全書で知識を蓄える。予備校講師など様々なアルバイトを経験し、93年に立川談志に入門。立川談生を名乗る。テレビの情報番組でリポーターを務めながら芸を磨く。96年に二ツ目昇進、2003年に談笑に改名。05年に真打昇進。古典落語をもとにブラックジョークを交えた改作に定評がある。十八番は「居酒屋」を改作した「イラサリマケー」など。
<今後の予定>都内での独演会9月16日、10月6日、吉笑(二ツ目)、笑二(同)の弟子2人とともに武蔵野公会堂(東京都武蔵野市)で開く一門会は8月28日、9月25日の予定。
立川談笑HP http://www.danshou.jp/

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