機械式高級腕時計に注力 スイス勢、ブランド戦略競う
よくわかる 腕時計ビジネス(2)
時計の本場で世界の腕時計市場で大きなブランド力を持つスイスのメーカー。一本100万円を超える高級品も珍しくなく、老舗から新興企業まで集まる裾野の広さも特徴だ。近年の戦略からは「ブランド深耕」、新素材などによる「価値向上」、スポーツを通じた「若い世代の開拓」といったキーワードが浮かぶ。
前回掲載「腕時計の世界輸出、中国が席巻 日本もスイスも後塵」もあわせてお読みください。
「パテック・フィリップ」に「オーデマ・ピゲ」、「ヴァシュロン・コンスタンタン」。いつか手にしたい世界三大高級時計メーカーとされる。ほかにロレックスやオメガも有名だ。現在、スイスの輸出全体に占める時計や精密機械の割合は2割を超える。
高価格帯の機械式に集中
一時は日本製のクオーツ時計の躍進にスイスの時計産業は打撃を受けた。窮地を脱するためブランド化に取り組む過程で、スウォッチグループを代表とする大規模グループが設立。各ブランドは日本勢などより高い価格帯で機械式時計に経営資源を集中した。生産量こそ多くないが、平均単価が圧倒的に高い。
スイスの時計メーカーが傘下に多いLVMHモエヘネシー・ルイヴィトングループの時計部門のトップ、ジャン―クロード・ビバー氏は「成功を収めるにはブランドを定義し、独自のメッセージを示すことが重要」と話す。価格を上回る価値や技術革新が一例と説明する。
他社もブランドを磨く。ロレックスは三針の美しい腕時計を中心に人気を高め、ビジネスで使う目的に加え、資産として購入する例も目立つ。日本でも積極出店中だ。「トゥールビヨン機構」を搭載した複雑時計に強いフランク・ミュラーやパテック・フィリップも愛好家を引き付ける。
新素材の活用などで質や価値を向上させる例もある。ウブロは経営難に陥った時期もあったが、特徴の一つとして本体やベゼルにセラミック素材を使用。バンドにラバーを貼り装着感を良くしようと工夫した。タグ・ホイヤーも素材に従来のスチールのほかセラミックやカーボンを使う。
スポーツ通じ若者世代を開拓
マーケティングの一環でスポーツに力を入れる企業も増えた。オメガはオリンピックの公式計時を担当。ウブロは高級車メーカーのフェラーリや国際サッカー連盟(FIFA)とパートナーシップを結ぶ。カールF.ブヘラもスイスサッカーの代表チームと公式タイムキーパー契約をした。ヨットやテニスと連携する例もあり、若者を中心に知名度向上を目指す。
スイス勢の戦略は日本市場での販売にも生かされ、日本人や訪日外国人(インバウンド)の需要を獲得してきた。ただ昨年はインバウンド特需の落ち込みも響き、業界では15年を2~3割下回るメーカーが多かったとの見方がある。各ブランドがどうてこ入れするかは日本勢の商品戦略にも影響するとみられる。
[日経産業新聞 2017年1月26日付を再構成]
第1回 腕時計の世界輸出、中国が席巻 日本もスイスも後塵
第3回 クオーツで席巻した日本勢 いま生き残りへ独自色探る
第4回 「東洋のスイス」諏訪 腕時計から自動車部品まで育む
第5回 到来!スマートウオッチ時代 有力ブランドも新作続々
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