腕時計の世界輸出、中国が席巻 日本もスイスも後塵
よくわかる 腕時計ビジネス(1)
腕時計産業が成長の岐路に立たされている。世界景気の減速などを受け、日本の総出荷は2016年、スイスの輸出は15年にそれぞれ減少に転じ、苦戦気味だ。中国メーカーの台頭も著しい。米アップルなどの腕時計型端末(スマートウオッチ)の存在感もじわりと高まる。市場を取り巻く環境と時計大手の戦略を読み解く。
第2回「機械式高級腕時計に注力 スイス勢、ブランド戦略競う」もあわせてお読みください。
機械式とクオーツ式
太古の日時計から始まり、教会に置かれた時計塔、懐中時計などを経て、20世紀に入ると手首に時計を巻く小型の腕時計が本格的に普及した。現在、腕時計は大きく2種類にわかれる。機械式とクオーツ式だ。
機械式はぜんまいを動力源とする腕時計で、主にスイスメーカーが得意とする。ロレックスやオメガ、オーデマ・ピゲ、ピアジェなどが代表企業だ。個性的なデザインに加え、重力で少しずつ生じる誤差を自動補正する「トゥールビヨン機構」を搭載した複雑時計にも力を入れる。
水晶振動子を使ったクオーツ式を引っ張るのは日本勢だ。日本では1913年にセイコーホールディングスが国産初の腕時計「ローレル」を開発。60年代後半には世界初のクオーツ時計を発売し、クオーツ式の腕時計で成長した。正確に時を刻み、低価格で大量生産できる点が特徴。70年代後半には日本勢の時計生産量が世界一となった。
その後、スイス勢は機械式腕時計に経営資源を集中。日本企業は全地球測位システム(GPS)といった機能面の充実を図った。
日本やスイスをはるかにしのぐ中国
その陰で90年代から時計市場で急速に成長を遂げたのが中国メーカーだ。安価な労働力を武器に、数百円や数千円の商品を大量に生産。スイス時計協会がまとめた2015年の世界の時計輸出によると、全体輸出量の約12億個のうち、中国は6億個強、香港は3億個弱を占める。日本(約5950万個)やスイス(約2810万個)をはるかにしのぐ数字だ。
日本市場ではここ2~3年、中国人を中心とした訪日外国人(インバウンド)需要が盛り上がり、腕時計販売も恩恵を受けた。スイスの高級腕時計に加え、日本製の商品も軒並み売れた。国内外の時計各社の業績は大きく伸びた。
台頭するスマートウオッチ
ただインバウンド特需が去り、高額消費の環境は停滞。米アップルや韓国のサムスン電子、米フォッシル・グループによるスマートウオッチの台頭も競争軸を変える。
日本やスイスの時計メーカー各社が次にどのような戦略を打ち出すか。消費者のニーズが多様になるとともにライバルが増えるなか、個性を持った商品の投入とマーケティング戦略が一段と重要になっている。
原欣宏、岩戸寿、ジュネーブ=原克彦が担当します。
[日経産業新聞 2017年1月25日付を再構成]
第2回 機械式高級腕時計に注力 スイス勢、ブランド戦略競う
第3回 クオーツで席巻した日本勢 いま生き残りへ独自色探る
第4回 「東洋のスイス」諏訪 腕時計から自動車部品まで育む
第5回 到来!スマートウオッチ時代 有力ブランドも新作続々
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