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映画セレクション

2014/1/10

映画セレクション

作家性の強い監督にとって現在の日本映画の製作状況は厳しい。「商業映画とインディーズの二極化が進み、かつてのように1億円ちょっとで作って単館系で回収するのが難しくなった」と是枝裕和監督は語った。映画ファンのコア層が減ったのに加え、DVDやテレビ放送など2次使用権の価格下落で、ミニシアターを軸に公開するアート作品の成立が難しい。より大きな予算で拡大興行に挑むか、数千万円以下、時に数百万円の低予算作品で勝負するか。作り手は選択を迫られる。

「そして父になる」 オリジナルで興行収入31億円のヒット

是枝裕和監督「そして父になる」 (C)2013『そして父になる』製作委員会

カンヌ国際映画祭で審査員賞を獲得した是枝監督「そして父になる」は前者の成功例であり、一つの光明を示した。フジテレビという大きなテレビ局と組み、福山雅治という人気歌手を主役に据え、興行収入31億円のヒットとなった。ベストセラー小説や漫画、ドラマの映画化ばかりが幅をきかす中、戦略を立てた上で、オリジナルで勝負し続ける是枝の姿勢をここではまず評価したい。

6歳の息子が新生児の時に取り違えられたことが発覚した2組の夫婦を通して、父になることの意味を問う物語だ。淡々とした日常にドラマを探ってきた是枝が「自分の足元を掘り下げた」と言う通り、子育てという身近な題材を冷徹な視線でとらえ直し、普遍的な人間ドラマに仕上げた。

もう一方の極である低予算の独立系作品にも注目すべき傑作があった。こちらにも光はある。

「フラッシュバックメモリーズ3D」 これまでにない3D映画

松江哲明監督「フラッシュバックメモリーズ3D」 (C)2012 SPACE SHOWER NETWORKS INC.

最も驚かされたのは松江哲明監督「フラッシュバックメモリーズ3D」。事故で記憶を失ったミュージシャンの復帰ライブと、彼が忘れてしまった過去の映像とを重層的に映し出す。これまでにない3D映画だった。演奏を通してよみがえる記憶。新しい記憶を忘れないための努力。それが、人間が生きる意味、生きる営みと重なってくる。

商業的な大作では成立しづらい、現実の事件を下敷きにした低予算作品にも力があった。秋葉原無差別殺傷事件に材をとる大森立嗣監督「ぼっちゃん」、女子高校生の母親毒殺未遂事件をもとにした土屋豊監督「タリウム少女の毒殺日記」、東京・足立の年金詐取事件に想を得た小林政広監督「日本の悲劇」。映画作家たちはそれぞれの事件に霊感を得ながらも、自身の世界観を強く打ち出し、現代社会そのものを射抜いた。

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この映画作家でしか描けない世界
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