おしん
映画的・現代的な快作
30年前に大ブームとなった国民的ドラマをなぜいま映画に? そんな疑問に見事に答える快作である。
吹雪の中を幼い娘が1人で歩いてくる。7歳のおしん(濱田ここね)だ。奉公が辛くて逃げたのではない。50銭を盗んだと疑われ、潔白を信じてもらえなかったからだ。雪は激しく、画面は時に真っ白になる。
雪山で半死半生のおしんが脱走兵に救われるこのシーンをはじめ、冬の山形の自然が随所でスクリーンに息づく。母(上戸彩)に見送られ、いかだに乗る川の身を切るような寒さ。赤ん坊のおしめを洗う水の凍るような冷たさ。ウサギを狩る冬山の澄みきった空気。
ロングショットを多用し、広大な風景を切り取る。その中に点景のようにとらえた人物の感覚や心理が生々しく浮かび上がる。顔ではなく、身体で語る。冨樫森監督が師・相米慎二から受け継いだ映画術。ブラウン管ではできないことだ。
おしんは働く。水を汲み、火を起こし、飯を炊く。食事を並べ、ぞうきんをかけ、赤子を背負う。常に体を動かしている。ここでも身ぶりがすべてを語る。
これは働く子供の映画であり、働く女性の映画であるのだ。働き続けたおしんは、祖母の臨終に帰った実家で、母もまた働きづめであったことに気づく。
「母ちゃん、働いてるんだな。いつもいつも働いてるんだな」。そんなおしんのつぶやきが強い現代性を帯びて迫ってくる。労働という行為を、純粋な身ぶりだけで描き切ったからだ。その尊さは時代を超える。
ドラマが放送された1983年、おしん世代は80代で健在だった。そこには日本が貧しかった時代の記憶と飽食の時代への批判があった。その世代のほとんどが亡き今、この物語はノスタルジーにはなりえない。
映画的であること。現代的であること。その両方にこの作品は成功している。1時間49分。
★★★★
(編集委員 古賀重樹)
[日本経済新聞夕刊2013年10月11日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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