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チェルノブイリを経験…放射線対策、欧州に学んで

スウェーデンから見る日本 高見幸子

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NIKKEI STYLE

 1986年4月26日に起きたチェルノブイリ原子力発電所の事故。当時、スウェーデンにも、チェルノブイリ原発からの放射性物質が大量に降り注ぎました。そのスウェーデンに40年近く暮らす筆者。現地での体験を基に、放射性物質から子どもや家族を守るためのヒントを教えてくれました 。[注]
質問
 高見さんの前回のコラムを読みました。日本は「未来に向けてエネルギービジョンを描く」どころか、いまだ放射性物質による汚染への不安が渦巻いている状態です。子どもへの影響がどれくらいあるのか、専門家の間でも意見が分かれているので、私のように小さい子どもを育てている家庭は、自分たちで判断し、自分たちで子どもの安全を守らねばならず、心配が尽きません。チェルノブイリ事故後の近隣諸国での対応や生活面での対策についてお聞かせいただけますか。(小学2年生・幼稚園児の2児の母、主婦)

前回のコラムで、私自身、チェルノブイリ原子力発電所の事故をストックホルムで体験したと書きました。その時の私の体験と、スウェーデン政府の対応、放射性物質とどう向き合うかを、今回はより具体的にお話ししたいと思います。

1986年4月26日に事故が起きたことを、旧ソ連は国民にも外国にも知らせていませんでした。チェルノブイリ原発からの放射性物質がすでに大量に降り注いだ後の28日に、スウェーデンの原発で放射性物質が検出されました。最初、スウェーデンの原発が原因かと大騒ぎになったのですが、調査の結果そうではなく、旧ソ連にあるチェルノブイリ原発事故からの放射性物質だったことが翌日の29日になってようやく分かりました。

その後10日間、放射性物質が主に北欧に広がり、スウェーデンも予期せぬ未曾有の原発事故の被害を体験することになったのです。

初めての危機は試行錯誤があるもの

チェルノブイリ事故対策で、スウェーデンの最大の反省点は情報の混乱です。

放射線は、人間の五感で感じることができません。国民は、省庁、行政、NGO、メディアが測定し分析した情報を頼りにするしかありません。そのため、迅速で正確な情報が、何よりも求められました。ところが、国民だけでなく、行政にもメディアにも放射性物質に関する知識が乏しく、情報が不明確で、解釈が困難でした。そのため、チェルノブイリ事故時の情報発信の混乱はひどい状態にありました。

そして、その教訓から、次に事故が起きた場合、100の質問への答えを準備しています。ひとつひとつの対策がどうして必要なのか、基準値を変更した場合は変更した理由をしっかり説明する、などです。どこの国も、初めての危機の対応には、試行錯誤があります。だからこそ、スウェーデンの失敗と成功を、ぜひ参考にしてもらいたいと思います。

事故後の情報について、スウェーデンでも批判はあったものの、パニックは起こりませんでした。その理由は、事実をありのまま隠さず国民に公開したことと、放射線量のデータや将来の健康へのリスクについての情報だけでなく、日常生活において、自分で放射性物質を避けるために具体的にどうしたらよいかなどの情報が、早い時期に示されたからだと思います。具体的な対策が行われたことによって国民からの信頼が得られました。

[注] 本記事はecomomサイト2011年6月17日付記事に加筆修正し再構成

「チェルノブイリ事故から10年」の報告書が示唆すること

スウェーデンで最も放射線の影響を受けたのは事故後に大雨が降ったスウェーデンのストックホルム北部の地域、北部のノーランド地方、ウップランド、ベストマナランド、そしてベスターボッテン地方と広範囲に放射性物質のセシウム137の被害の範囲が広がりました。また、放射性物質を含んだ雲が通過した時にどれくらいの雨量がどこに降ったかによって線量が違ってきました。ストックホルム北部イエブレ市とスンスバル市は、チェルノブイリ原発から半径30キロゾーンのすぐ外側と同じ汚染濃度だったのです。

スウェーデンの食品庁は、1996年に「チェルノブイリ事故から10年」という10年間にどのような対策をし、現在どういう状況かの報告書を発行しています。

スウェーデンと日本では食生活、ライフスタイルが違うのでスウェーデンでの具体的な食生活の対策やアドバイスをそのまま使えませんが、考え方は、同じなので参考になるのではと思います。その報告書の概略をご紹介します。

(1)まずヨウ素、その次はセシウム137対策

チェルノブイリ原発事故の翌日の4月27日にスウェーデンに降った放射性物質の中で、放射性同位体のストロンチウムとプルトニウムはほとんどありませんでした。事故直後は、ヨウ素131の対策を重要視しました。原子核が崩壊して放射能が半分になるまでの期間を「半減期」といいますが、ヨウ素は8日後ごとに半減していくので、長期の対策は必要ありませんでした。セシウム134も2年で半減するので、事故後、数年の対策ですみました。しかし、セシウム137は半減期が30年間と長いため、長期の対策が必要となったのです。

服に付着するなどの外部被ばくは、それを除去すればなくなります。しかし、内部被ばくは水や食品を通して体内に入ると、体内にある限り被ばくが続きます。何年もたってからガンなどにかかるリスクがあり、内部被ばくの予防対策は外部被ばくよりもっと重要なのです。

セシウム137は長期にわたって測定し、対策を

日本において福島原発から放出された放射性物質は、自然界の食物連鎖を通して、肉、魚などに蓄積していきます。それゆえ、特に半減期の長い放射性物質のセシウム137は長期にわたって測定し、対策を立てていくことが重要です。次に、食の安全に対し管理責任のある省庁が、具体的な安全管理の長期目標と、戦略や対策について、国民とよく意思疎通することが重要だと思います。

(2)スウェーデンの具体的な対策事例

事故直後にスウェーデンで一番影響を受けたのは、牧草を食べる乳牛でした。牛乳にヨウ素131が含まれるという問題が起きたのです。政府はすぐに、酪農家に6月末までは乳牛を放牧しないように指示しました。普段は5月から放牧をするのですが、酪農家は指示に従い、6月末まで室内で飼い、冬用の乾燥飼料の干し草を与えました。干し草が足りなくなると、放射性物質の汚染がなかった地域から買って与えるようにしました。しかし、ヨウ素の半減時期は早いため長期の問題にはなりませんでした。

牛肉にも一部の地域で高い濃度のセシウムが検出されたそうですが、牛、豚などの家畜においては、大きな問題はなかったようです。しかし、羊の肉は、セシウムが数年間、検出されました。羊の肉の放射線量が1キロ当たり、300ベクレルを超えた場合、その肉は処分されたのです。

(3)放射線量の基準の考え方

スウェーデンは、放射線安全庁と食品庁が共同で、食料に関して年間摂取線量の基準目標を1ミリシーベルトにしました。事故の数カ月後には、セシウム137の測量に注力し、食品におけるセシウム137の基準値を導入したのです。

基準を決める時の基本的な考えは、市民が買い物する時に、放射線のことを心配しなくてもよいようにすることでした。

そうして決まったのが、300ベクレル/kgという基準値です。また、300ベクレル/kgという基準値は、危険か危険でないかの境を示すものではないとも指摘しています。つまり、リスクの観点から考えると1年間でトータルにどれだけ摂取したかの方が重要で、1年間トータルで、1ミリシーベルト以下にすることが目標なのです。

1ミリシーベルトは、年間食べる食料品トータルの量として考えなければならないので、毎日、日常的に食べる食料品や子どもの食事における基準は、1キロあたり300ベクレル以下と厳しく、たまにしか食べないトナカイの肉や野生のベリー、キノコ、川魚、湖の魚、ナッツなどは1500ベクレルとなっています。ベクレルは、放射線を発する力の単位です。

EUに加盟してからは、外国からの輸入品に対する基準値が加わりました。子ども食、ミルク、乳製品は、370ベクレル以下とし、その他は600ベクレル以下となりました。

(4)トナカイ、シカ、野生のベリーへの影響が大きかった

トナカイやシカは、10年たっても数千ベクレル、野生のベリーは、1500ベクレルが検出されていました。10年後にも、特に、放射性物質の影響が大きかった森や湖では影響が残っていたのです。

年5万頭のトナカイを処分

トナカイは遊牧され、野生の地衣(ちい:見かけがコケのような菌類と藻類からなる共生生物)を食べることで、セシウムが高くなります。1988年から1993年の間で、年間3万6000~4万6000頭が処分されました。全体の14~46%です。1995年になってやっと7~8%程度の処分になったそうです。ラップランドやノーランドの人たちの食生活に、トナカイやヘラジカなどは欠かせないことを考えると、非常に深刻な状況でした。

スウェーデン政府は、全国民に、食生活のアドバイスのパンフレットを送付しましたが、ラップランドやノーランドの人たちに対しては、彼らの食生活に合わせたアドバイスのパンフレットを送りました。

野菜の場合、被害のあった北部は4月末でもまだ残雪があり、越冬するパセリやニラ、そして山菜に高い濃度が検出されるケースもありました。栽培された野菜に関しては、数カ月間、食品庁により線量が測定されましたが高い濃度は検出されませんでした。

(5)魚の問題

魚においては、水深が浅く栄養分の少ない湖の魚ほど、高いセシウムの線量が検出されました。栄養分が少なければ少ないほど、また水温が低ければ低いほどセシウム137の半減期が延びるためです。10年たっても、魚の放射線量は少ししか減っていませんでした。高い線量が検出されるのは、カワカマスやカナダマスなど生態ピラミッドの上方の魚です。大型のスズキ、サケの種類、川マスは、1500ベクレルを超えることがありました。

しかしながら、コクチマス、小型のサケの種類や川マスに検出される線量は低いということが分かりました。半減期を短くしようと石灰やカリウムを湖に散布しましたが、あまり効果はありませんでした。改善率は、良くて数%でした。

(6)セシウムと農業

農業への放射線の影響は、1986~1987年に限られました。現在も継続して研究していることは、肥料や石灰を含むいろいろな対策が長期的に様々な穀物にどのような効果があったかを調べています。

(7)スーパーでの食料品

10年後、一般的な市民がスーパーで買い物した食品の放射線量を測る調査をしました。その結果、最も放射性物質の影響を受けた地域も含め、全国的にセシウム137の摂取は減っていたそうです。一番高い、ベスターボッテン地方の平均が年間815ベクレルで、全国平均は274ベクレルでした。1年に5万ベクレル摂取した場合、0.7ミリシーベルトになることを考えると、その値の低さが分かります。

興味深いことに、スウェーデンのスーパー業界は、国の基準の300ベクレルが決まると、それよりはるかに低い基準を設定して消費者の信頼を得る努力をしました。そうしないと、消費者が買ってくれなくなることを危惧したからだそうです。

チェルノブイリ事故で、スウェーデン人が突発的に病気になるということはありませんでした。土壌から外部被ばくする場合と食品を通して内部被ばくする場合があり、それらトータルの被ばく量の中で、内部被ばくの割合は6分の1だったそうです。

健康への影響としては、将来50年の間にチェルノブイリ事故が原因でガンにかかって亡くなる人が300人出るだろうという予測がされています。しかし、スウェーデンでは、年間2万人の人がガンで亡くなっており、年によって死亡者の数値の差が300人以上あるなかで、300人という数は少な過ぎて、チェルノブイリ事故と結びつけることは難しいとされています。その他の健康への害は、確認されていません。

日本はどうすればよいか

日本も、スウェーデンのようにどの放射性物質が、どれだけの規模で分布しているのかを把握し、日本の土地や食文化、事情に合わせて日本の食品の基準を作り、社会に徹底していくべきだと思います。つまり、どの野菜、肉、魚が、セシウム137を吸収しやすいのか、生物の成長の過程でどれだけ減るのか、あるいは増えるのかなど長期的な研究が必要だと思います。

事故後、3年がたつ現在も、福島原発が収束されておらず、最近、福島原発から汚染された水が海に流出する事故も起きています。福島原発の近辺の海の魚の状況を調べることは極めて重要だと思います。また、福島原発近辺の地下水への影響も調べる必要があると思います。

そして、スウェーデンでトナカイを飼って生活をしているラップ人に特別に食生活の指導をしたように、福島原発の影響を受けた地域の漁村や農村で自給自足の習慣のある人たちに、調理の方法で食材の線量をどれだけ減らせるか、あるいは食べる回数をどれだけ少なくするべきかなどの情報を提供し、日常生活で内部被ばくを避ける行動ができるようにすることが、重要な対策だと思います。

その過程で、農業、漁業を営んでいる人たちに、協力してもらうためのインセンティブになる政策が必要です。スウェーデンでは、10年にわたって農家への補助が行われてきました。農家の人たちの協力があってこそ、国民全体の内部被ばくを避ける対策ができます。最初からお金がないことを大前提に考えると、対症療法になってしまいます。

原発事故による放射性物質のような複雑で長期的な問題の解決は、スウェーデンが示唆しているように、あるべき姿から現在必要な対策をすることが必須だと思います。

子どもの健康を大前提にした食品の基準値を

日本も、事故後しばらく、情報の混乱がありました。また、原発の安全神話が崩れるとともに、国への信頼も崩れてしまいました。年間線量の基準値は3年間で、何度も変わりましたが、2012年4月1日からは、国際的な基準である「年間線量1ミリシーベルト以下」に設定されました。新たな基準値は、飲料水、乳児用食品、牛乳、一般食品の4区分で定められています。乳児用食品や牛乳は、子どもの安全を優先する観点で設けられた区分で、万が一、流通する食品のすべてが汚染されていた場合まで考慮して、基準値を計算していると厚生労働省が発表しています。それゆえ、基準値は、一般食品を100ベクレル、乳児用食品50ベクレル、牛乳50ベクレルと厳しくなっています。

また、厚生労働省は、全国15地域で、実際に流通する食品を購入して放射性セシウムの測定を行い、1年間に食品中の放射性セシウムから受ける放射線量を推計しホームページで公表しています。

そして、食品中の放射性セシウムから、人が1年に受ける放射線量は1ミリシーベルト/年の1%以下であり、極めて小さいことが確かめられたと公表しています。今後も、継続的にこうした調査を行い、食品の安全性の検証に努め、悪しき情報も隠さず公開し、しっかり意思疎通をしていくことで国民の信頼が回復し、誰もが元の安心できる生活に戻れると思います。

高見幸子
1974年よりスウェーデン在住。15年間、ストックホルムの基礎学校と高校で日本語教師を務める。1995年から、スウェーデンへの環境視察のコーデイネートや執筆活動等を通じてスウェーデンの環境保護などを日本に紹介。2000年から国際NGOナチュラルステップジャパンの代表。現在、顧問として企業、自治体の環境ファシリテーターとして活動中。共訳『スウェーデンは放射能汚染からどう社会を守っているのか』(合同出版)など。

[ecomomサイト2011年6月17日付記事に加筆修正し再構成]

[参考] 家族と自然にやさしい暮らしがテーマの季刊誌『ecomom(エコマム)』。2014年春号では、「『食』からはじまる家族の健康」「イマドキの小学校の英語どうなっているの?」「震災を忘れない――。今からでもできること」などを特集。公式サイト(http://business.nikkeibp.co.jp/ecomom/)で登録すると、無料で雑誌が届く。

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