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「罪悪感のマネジメント」に悩む

~ママ世代公募校長奮闘記(8) 山口照美

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NIKKEI STYLE

8月3日に、40歳を迎えた。その日は小学校で地域を挙げての防災訓練が行われており、校長として参加していた。朝から外部の人が使うトイレの便器を汗だくで磨き、「まさか40歳で小学校で働いているとはなぁ」と感慨にふけった。

公募校長の中で、女性は1人、しかも合格当時は4歳と0歳の乳幼児持ちだった。校区である子ども向けの地域行事には、自分の子も連れて行く。もともと、敷津小の教職員は子連れ参加率が高く、少人数校ならではのアットホームさがあった。

ベビーカーを押す私の姿を、「すっかりこっち側(保護者側)ですねぇ」と喜んで話しかけてくれるお母さんは多い。ゲームをやめない小学生の悩みに答える代わりに、食べない乳児の悩みを話してアドバイスをもらったこともある。一方で、家族を連れていくことを「校長として軽く見られる」と他の校長に心配されたこともある。難しい。

伝統的な校長になろうとすれば、「民間人校長」としての存在意義が無くなる。そもそも、40歳で乳幼児持ちの校長そのものに前例がない。着任してからの3カ月半、仕事環境の変化と同時に「家庭のやりくり」も大変だった。

「母親としての罪悪感」と戦う

私が先に家を出る。夫が子ども2人を起こし、朝食を食べさせて保育園に送る。夫は訪問介護や外出介助の仕事を週の半分、自営業の仕事を週の半分ぐらいの割合でしている。夕方に子どもを迎えに行き、夕食を作って食べさせ、風呂に入れて寝かしつける。私は早ければ18時半ごろ、遅い日は22時過ぎに帰る。日曜の夜は夫が介護の仕事に行くことが多く、私が子どもを寝かしつける。

4月に義母が倒れるまでは、週に3日ほど夫は実家に子どもたちを連れて行き、夕食と入浴を義母に手伝ってもらっていた。今は、頼れない。リハビリ中の義母を見舞いに行き、洗濯物を持って帰り、また持って行くのも彼の担当だ。私は、経済的なサポートを精いっぱいするしかない。

ここで言い訳がましく「精いっぱい」と書いている自分に気がつき、うんざりする。さっきの文章の合間に「早く帰った日は私も読み聞かせをしている」と書いて、消した。こうして書いてしまえば一緒だが、「母親として、妻として、嫁としての自分」がダメだと感じている自分が現れて、つい言い訳を書き添えたくなるのだ。

お盆休みに読んだ、シェリル・サンドバーグ著の『リーン・イン』には「母親にとって、罪悪感のマネジメントは時間のマネジメントと同じぐらい重要である」と書いてあった。そう、私はまだ「罪悪感のマネジメント」がうまくない。シェリル・サンドバーグはフェイスブックの女性最高執行責任者(COO)にして、2人の子どもがいる。成功者然としてほほ笑む表紙を開くと、今の私と同じ悩みが書いてあった。

山口家では、彼女のようにお金でベビーシッターを雇えないので、保育園と夫に頼っている。校長に着任してから4カ月、みるみるうちに部屋が荒れた。オモチャや絵本が片付かないままなのは、まだいい。

夏休み、少し時間ができたので夫が子どもに朝食を与えるのを見る機会があった。ほぼ毎日、娘は菓子パンに麦茶、フルーツを少し。私が校長になる前は、目玉焼きやゆで卵も作っていたのに、下の子の食事にも追われるため作れなくなったようだ。ある日は、残った味噌汁にロールパンを出しているのを見て、さすがに止めた。

「ご飯を解凍して何かおかずを作るから、パンと味噌汁の組み合わせはやめて!」

よく考えれば、給食で「ご飯と牛乳」の給食を食べているくせに、何をこだわっているのだろうか。ともかく、慌てて私は「ご飯と味噌汁」の朝食を整えた。

「夫の育児参加についてアドバイスを求められたとき、私はいつも『彼に任せなさい』と言う。彼が自分でやろうとする限り、どんなやり方でおしめを替えたって文句を言わないことだ。」

夏休みになってから夫に口を出し続け、へとへとになった頃に『リーン・イン』でこの記述にぶつかった。学校現場で児童に求める生活習慣があるだけに、つい、うるさくなってしまう。いや、本当は自分自身の母親としての罪悪感を、夫になすりつけているだけかもしれない。

「私もできた、あなたもできる」の呪縛

「夫のやり方が気に入らないなら、母親である私ががんばればいい」という意見もあるだろう。教育の現場では、「家庭の教育力が落ちた」という言葉が、よく聞かれる。本来、家庭で身につけてくるべき基本マナーができていない。だから、小学校の現場は大変だ、と。そして、ほとんどの人が「家庭の教育力」を、「母親の教育力」と同義語で使っている。働く母親が増えた、育児をしない女性が増えた、だから子どもはダメになったのだ。「乳幼児を夫に任せて働いている女性校長」として、その議論を複雑な心境で聞いている。

研修中、私に向かって延々と「保育園と同じく小学校に『預ける』という感覚の母親が多い、学校給食なんてなくしてしまえばいい、母親はもっと子どもに手をかけるべきだ」という話をし続けた教育関係者もいた。

その半面、OGの元女性校長は優しかった。こんな話をしてくれた先生がいる。

雨の日、学校をギリギリに飛び出して保育園に迎えに行き、自転車の前後に子どもを乗せて家に向かう。途中、ぬかるみにハマって自転車ごと倒れた。すぐに子どもを助けるより先に、「どうしよう、明日学校に行けないかも」と思った自分がいた。……学校行事に行けない、丁寧なお弁当を作ってあげられない。いっぱい悪いことをした、でも仕事も同じぐらい好きだった、と。

「あなたは子育て中の教職員と同じ目線で、働きやすいように考えてあげて」

大先輩に言われた言葉を胸に、現場に入った。子育て中の人、介護を抱えている人、遠方から通う人、研究活動やプライベートを大事にしている人。子育て世代に配慮することは、全員が働きやすい職場を作ることに通じる。それはそのまま、乳幼児を抱える自分がどうしたいか、考えることにつながる。土日が両方つぶれるのは切ない。せめて夕食には間に合わせたい。重要な用事と重ならなければ、節目の行事には出席したい。

リーダーがそう思い、言葉にすることで部下も言いやすくなる。管理者が「長時間労働は美徳」と考えているなら、その下で働く人たちは不幸だ。特に若い頃のむちゃ働きを武勇伝と勘違いしているタイプが上司や先輩に多いと、「最近の若い者は楽しやがって」となる。

社会や通信技術は変化している。忙しさは、単純比較できない。PTA活動にしても地域の活動にしても、「過去に自分がやったしんどいこと」をやらせないと気が済まないタイプの人達は一定数いる。私も公立保育園の保護者として、行事の多さに悩まされている。

先ほどの元女性校長のように、「しんどかったからこそ繰り返させたくない、楽にしてやりたい」と思い、環境を少しでも変えられる人になりたい。そうしなければ、減りゆく若年労働者の力を疲弊させるだけだ。私は単に「ママ世代の管理職」にすぎず、「家事育児仕事(+美容)のすべてをやりくりしているスーパーママ管理職」ではないことを、改めて書いておきたい。

私が「母性神話」を信じない理由

『リーン・イン』で紹介されていた、フェイスブック社に張られていたポスターがいい。「完璧を求めるより、まず終わらせろ」。家事育児は待ったなしだ。早く寝かせたければ、手の込んだ料理を作っている暇はない。ある意味、夫のラフな朝食は「まず終わらせろ」を実践しているだけだ。改善の余地はあるにせよ。

相変わらず、教育業界とその周辺は「母性」を育児に求めている。私はその度、胸が痛くなる。自分が「母親として罪悪感を抱いているから」ではない。私自身が、自分を産んだ母親を知らないからだ。

私を身ごもった母親は、私を産みたくないと言い続け、泣きわめく10カ月の私を床に転がして、3歳の姉と家財道具一式を持って出ていった。真意や理由は、聞いてみないとわからない。どうしようもなかったのかもしれない。ただ、事実として40年近く、一度も私に会いに来たことはない。

産んでくれたことに感謝はしているが、「子どもを捨てる母親」は確かに存在している。

出産経験のない継母が24歳にして私を引き取って、父親と再婚してくれた。思春期の確執や家庭の経済状況に翻弄されて紆余曲折(うよきょくせつ)があったが、今の私がいる。子どもに必要なのは「母性」などという不確かなものではない。「環境」だ。導く大人は、誰でもいい。産んだ母親が育てるケースでも、閉塞的な育児より複数の大人がいた方がいい。

「産んだ母親の教育力」がないと子どもはまともに育たないと言われるたび、自分の人生を否定されたような気になる。母親だけに責任を背負わせるのではなく、チームで育児をすればいい。授乳ができないから、男に育児ができないなんてありえない。

授乳に時間と体力を奪われているチームメイトに、何ができるか考えてほしい。会社で状況判断とサポートができるなら、家庭でもできる。洗濯、掃除、買い物、夕食づくり。代わりにできることは、いくらでもある。

ラッシュでの通勤、学校業務と付き合いの飲み会まで経て、家までの坂を登る。ぐったり疲れて帰るなり、子どもの世話や家事が待っている。それがどれだけしんどいことか、外で働く側の苦労もわかる。決して怠けているのではないのだが、少なくとも私より時間に融通の利く、夫がうらやましい日もある。

でも、やってみるとわかる。彼が仕事で自分が家にいる日は、予定家事の半分もこなせない。作って食べさせて片付けて、その繰り返しで数時間。洗濯機は3回回し、それでもまだシーツを洗えないまま週末が過ぎていく。それでいい。今、子どもが求めているのは、完璧に整った部屋より、一緒に遊んでくれる時間なのだから。

「完璧を求めるより、まず終わらせろ」――よし、我が家にも張っておこう。

山口照美(やまぐちてるみ)
同志社大学卒業後、大手進学塾に就職。3年間の校長経験を経て起業、広報代行やセミナー講師、教育関係を中心に執筆を続ける。大阪市の任期付校長公募に合格、2013年4月より大阪市立敷津小学校の校長に着任。著書に『企画のネタ帳』(阪急コミュニケーションズ)『売れる!コピー力養成講座』(筑摩書房)など。ブログ「民間人校長@教育最前線レポート」(http://edurepo.blog.fc2.com/)も執筆中

(構成 日経BP共働きプロジェクト・日経DUAL編集部)

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