「家で逝きたい」を支える 訪問看護、家族に寄り添う130万人のピリオド(11)

ケアタウン小平訪問看護ステーションは患者や家族からの連絡に24時間対応している(東京都小金井市の大類さん宅)
ケアタウン小平訪問看護ステーションは患者や家族からの連絡に24時間対応している(東京都小金井市の大類さん宅)
最期は自宅で迎えたい。そう願う人は多いが、現実には大半の人が、病院や施設など自宅外で亡くなる。本人の望みをかなえ、家族が悔いなく「そのとき」を受け入れるには何が必要なのか。自宅でのみとりを24時間体制で支える訪問看護の現場には、そのヒントがあった。

「あのとき、ああしておけばよかったという後悔はない。家族でできることをしてやり切った」。今月17日に亡くなった大類幾男さん(享年83)の妻(79)は、家族で幾男さんをみとった1カ月の日々を、穏やかに振り返る。

幾男さんは前立腺がんを患っていた。ただ80歳を超えても社長を務めるなど元気だった。容体が悪化したのは3月。がんが骨に転移して足がまひし、歩きにくくなった。食事の量も大幅に減った。

かかりつけの医師は、余命約2カ月と診断。終末期の在宅ケアを手がける「ケアタウン小平訪問看護ステーション」(東京都小平市)を妻に紹介した。看護や介護をどうすべきか。悩む妻に、所長の蛭田みどりさんは話した。「うちなら一括して全部できますよ」。妻は安心し、3月中旬から利用し始めた。

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幾男さんの体は次第に自由がきかなくなり、家族が介護に参加する場面が増えた。同居する高校生の孫(17)は、帰宅後すぐ幾男さんの部屋に駆けつけ、硬くなった足をもみほぐした。亡くなる前日の夜には3時間近くマッサージをし続け、三世代の家族で幾男さんを囲んだ。

所長の蛭田さんは、事前にこれから起こりうる変化や見守るための心がけ、死後の準備を家族に説明していた。幾男さんの長女(50)は「聞いた通りに容体が変わっていき、慌てることなく対応できた」と話す。死後の装いについて家族で事前に話し合い、ゴルフ好きだった幾男さんにピンクのウエアを着せた。

同じく訪問看護を利用し、17日に前立腺がんで亡くなった小平市のAさん(享年87)の妻は「支えてくれた看護師さんを見ると涙が出る。最期を家で安心して迎えられた」と振り返る。担当看護師の斎藤明子さん(46)は「みとりはそれぞれの家族にとって貴重な機会。自宅で亡くなってよかったと思ってもらえるよう心がけている」と話す。

ケアタウン小平訪問看護ステーションの現在の利用者は、半径約3キロメートル圏内に住む約70人。常勤の6人と非常勤の2人の看護師で運営し、併設するケアタウン小平クリニックの3人の医師と連携する。週に2回ほどの定期訪問に加え、24時間体制で利用者や家族の電話を受ける。必要なら深夜でも駆けつける。

朝夕には、患者の様子や家族の気持ちなどの情報を共有する「申し送り」を開き、家族に寄り添うケアを徹底している。クリニックの山崎章郎院長は「家族は本当に家でみとれるのかと不安を持っている。できることを前もって提案し、自分たちでも支えることができる、と自信がつけば、家族がうまく判断できるようになる」と話す。

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利用者の多くは、容体が比較的安定した末期がんの患者だ。およそ4分の1は2週間以内、半数近くは1カ月以内に亡くなる。スタッフはみとりの後も訪問し、遺族の気持ちに寄り添うグリーフケアも手がける。山崎院長は「家でみとったことを後悔しないよう、説明やケアをする。家族は、精いっぱいやって故人の思いに応えたと思えれば、その後堂々と生きていけるから」と話す。

厚生労働省は自宅や地域で最期を迎えられるよう、医療、介護など切れ目のない緩和ケアを一括して受けられる「地域包括ケアシステム」を推進する。全国訪問看護事業協会によると、2015年4月1日時点で、全国で稼働中の訪問看護ステーションは8241カ所。10年の統計開始以来、増え続けている。

山崎院長は「病院の受け皿は増えており、我々が10年前に始めたときよりも環境はよくなってきた」とみる。ただ、24時間対応できる体制を整えるには「バックアップする医師や、一定以上の数の看護師の確保が不可欠」と話す。

(小柳優太)

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地域のサービス拡充を 在宅死かつて8割、今1割

自宅で亡くなる人は戦後間もないころは8割強だった。その後、1974年に50%を割り込み、2014年は13%に減った(人口動態統計)。国民皆保険が行き届き、誰もが病院を利用できる豊かな社会になった証しでもある。半面、民間財団の調査では、余命が限られている場合、8割強は自宅で過ごしたいと願っており、希望と現実に開きがある。

家族形態の変化も自宅での死亡が減った一因だ。国民生活基礎調査で65歳以上の高齢者がいる世帯をみると、75年は三世代同居が54%を占めたが、13年には13%に減った。代わって夫婦のみの世帯が最多で31%に上る。75年当時は専業主婦が主流で、高齢者を見守る人手も家庭にあった。女性のライフコースが多様化しており、高齢者の世話を押しつけるのは許されない。定期巡回・随時対応型訪問介護看護など地域の医療・福祉サービスの拡充が、高齢者の最後の希望を支える鍵となる。

(編集委員 石塚由紀夫)

「130万人のピリオド」は今後、随時掲載します。