「多死社会」ニッポン 終のすみか、ありますか?130万人のピリオド(1)

2015年の死亡者は130万人を超え、戦後最多となった。少子高齢化問題は出生率低下に目を奪われがちだが、その陰で年間死亡者数が急増している。多くの人が亡くなる社会が直面する課題は何か。まずは自分の望む終(つい)のすみかを得た高齢者を追った。

「人生の最後に親友ができた」とキヨコさん(91)は話す。でもその親友はもういない。がんとの闘病を経て2015年4月に亡くなった。

一軒家の家庭的な雰囲気のなか、お年寄りが暮らすNPO法人「ホームホスピス武蔵野」の「楪(ゆずりは)」(東京都小平市)

キヨコさんは「ホームホスピス楪(ゆずりは)」(東京都小平市)で暮らす。介護や病気療養などで一人暮らしが難しくなった高齢者が共同で生活する場所だ。ほかの施設と違い、ホームホスピスは最期のみとりまで対応する。本人が望んでいれば危篤になっても救急搬送されずに住み慣れた自室で最期を迎える。

キヨコさんは脳梗塞で半身が動かない。楪には14年6月にやってきた。親友になったのは半年後に入居した80代の女性。彼女はがん末期で余命宣告を受けていた。キヨコさんは彼女の手を握り「大丈夫、あすはきっとよくなる」と最後の日まで励ました。

「最期は家庭的に」 希望かなえるホームホスピス

15年の死亡者数は130万人を超えた。8割強は病院や高齢者施設など自宅外で亡くなった。ただ民間調査によると、余命が少なくなったとき、約8割は自宅で過ごしたいと願っている。せめて家庭的な雰囲気で最期を迎えたい――。そんな高齢者の希望をホームホスピスはかなえる。

楪は5LDKのマンションの一室を改修して14年4月にオープンした。共有リビングを囲んで5つ個室があり、ケアスタッフが24時間常駐する。入居金30万円と月30万円前後の利用料がかかる。今はキヨコさんのほかタミさん(97)、ヒサエさん(93)が暮らす。共同生活の場だが、生活の制限は一切ない。例えば食事。スタッフが一日3回、定時に準備するが、いつ食べるかは本人次第だ。

ルールで縛れば効率的に運営できる。「でもここは入居者にとって自宅。好きにできなくては自宅じゃない」と運営母体のNPO法人「ホームホスピス武蔵野」理事長の嶋崎叔子さん(67)は言う。がんの父親を自宅でみとったのを機に理想の高齢者の住まい方に関心を持った。だから高齢者の満足が最優先だ。

いつも笑顔のタミさんは開設当初から暮らす最古参だ。ヒサエさんは元英語教師。本を手放さず静かに読書を楽しむ。2人とも認知症を患い、1人で暮らせない。亡き夫との記憶が突然よみがえれば、スタッフは落ち着きを取り戻すまで寄り添い待つ。

これまでここで6人が亡くなった。5人ががん、1人は老衰だ。入居前に「いのちの事前確認書」を取り交わして意思を確認する。命にかかわる状況のときに楪で最期まで過ごしたいか、病院での治療を希望するか。心停止に陥ったとき、心肺蘇生を希望するかしないか。望まぬ延命を拒否する自由がここにはある。

運営のカギは医療との連携だ。楪は在宅ホスピス活動に取り組む「ケアタウン小平クリニック」(小平市)の支援を受けている。定期的に往診があり、万一の場合はいつでも医師が駆けつける。

日本で最初のホームホスピスは、04年、宮崎市に誕生した「かあさんの家」だ。がんや認知症などを患い、行き場所を失った高齢者を受け入れ、みとってきた。その理念に共感した人々が、現在全国約20地域でホームホスピスを運営する。15年8月には全国ホームホスピス協会が組織され、さらなる普及を目指す。

ケアタウン小平クリニックの山崎章郎院長は「病院などの施設数は限られているし、高齢者の多くはそこで亡くなるのを望んでいない。人が多く亡くなっていく多死社会への備えが不十分だ」と話す。

生を受ければ必ず亡くなる。人生最後の希望くらい、かなうものならかなえたい。亡くなる人が増えれば増えるほど、そんな願いの数も増えていく。

(入居者のプライバシーに配慮し、氏名は名前をカタカナで記しました)

団塊の老い、日本の課題に 死亡者数のピークは2039年

日本は今後、多死社会に直面する。130万人を超えた年間死亡者数はさらに増え、2039年に167万人でピークに。その後は緩やかに減るものの、160万人台が続く。

戦争や流行病など特殊な事情を除けば、短期間で死亡者数がこれほど急増するのは国際的にも珍しい。出生数が爆発的に増えるベビーブームが日本は短期間で終わったためだ。

第2次世界大戦終了直後の1947~49年に年間出生数は260万人を超えた。団塊世代の人たちだ。ただわずか3年でベビーブームは収束。この結果、前後の世代と比べ人口が突出して多い。団塊世代が年老いていく今後、死亡者数が急増する。

団塊世代は、働き手や消費者として日本の高度経済成長を支える原動力となった。団塊世代がもたらした果実を日本社会はすでに謳歌した。今後は、団塊世代がもたらす多死に社会全体で対応する必要がある。(女性面編集長 石塚由紀夫)