「身元保証人を求めること自体は問題ないが、保証人がいないことはサービス提供を拒否する正当な理由には当たらない」。厚生労働省は3月7日、都道府県や政令市、中核市の担当課長らを集めて省内で開いた会議でこう説明した。身元保証人のいない高齢者が病院や施設の入院・入所を拒まれる実態を重く見て、指導や監督の権限がある自治体に対し、不適切な取り扱いをしないよう対応を求めた。
厚労省令では特別養護老人ホームなどの施設について「正当な理由なくサービスの提供を拒んではならない」と定めている。しかし、多くの病院や施設は身元保証を慣例的に求めている。成年後見センター・リーガルサポートの調査(2014年)では、病院や施設の9割以上が保証人を求め、いない場合に入院や入所を認めないのは病院で23%、施設で31%に達した。
◇ ◇
病院や施設が保証人を求めるのは「費用が支払えない場合や亡くなった際の引き取りなどで、家族や家族に準ずる人がいないと困る」(都内の病院)ためだ。70代の女性は入院時に「夫が保証人になるだけではだめ。緊急連絡先として、もう一人付けてくれと言われた」と明かす。
だが、家族や親族以外に保証人になってもらうのは難しいのが実情で、保証人機能を代行する事業者に依頼する例が増えている。
名古屋市内で一人暮らしをする小林勝義さん(75)は、NPO法人、おひとりさま(同市)と生活・身元保証契約を結んでいる。同NPOは身元保証のほか役所の手続きの代理・代行や、介護施設、病院への入所・入院手続きなどの生活支援をする。契約時に払う利用料金は33万円だ。
小林さんは現在、入院・入所を迫られる健康状態ではないが「いざというときのために契約した」という。子どもがなく、兄弟も愛知県内で離れて住んでいるため、急に親族の身元保証を求められても対応できないためだ。
同市に住む要介護2の男性(90)の場合は、ケアマネジャーから同NPOへ身元保証の要請があり、契約を結んだ。男性は妻を亡くし、身寄りがなく、訪問介護、訪問看護を受けている。身元保証契約は病院や施設への入所・入院に備えての措置だ。
◇ ◇
こうした代行サービスはNPO法人や財団法人が手掛ける例が多いとみられる。ただ届け出制ではないため、事業者数などの実態は不明だ。
利用の際は、ある程度、収入に余裕がないと難しい。生活・身元保証サービスに加え、火葬の立ち会いなど死後事務などまで含めると、100万円以上の料金になる例も少なくないようだ。「リスクを負うのだから相応の料金に設定しないと事業が回らない」(ある事業者)との声が多く上がる。
加えて、大手事業者の公益財団法人・日本ライフ協会が3月、預託金の流用で運営が行き詰まるという事業者への信頼が揺らぎかねない事態も起こっている。
それでも、身元保証の見直しや公的機関による保証機能の代行などが進まぬなか、家族を当てにできない高齢者は事業者に頼らざるを得ない。NPO法人、シニアライフ情報センター(東京・渋谷)の池田敏史子代表理事は「現実に身元引き受けの市場は必要で、ニーズは拡大する」とみる。
かつてあった地域社会や家族関係が大きく変わり、高齢者が置かれた環境は様変わりしている。高齢者の意識も変化し、身元保証が可能な子どもや兄弟がいたとしても「あえて頼りたくない」という人も増えている。明治学院大学の河合克義教授は「身元保証問題は単なる家族の問題ではなく、日本社会の構造問題。家族の助け合いを当然とする高齢期の生活支援は限界に達しつつある」と話す。
◇ ◇
債務の連帯保証、疑問も 公的関与望む声多く
病院や施設は保証人制度をどう考えているのだろうか。成年後見センター・リーガルサポートが病院や施設を対象に実施した調査では、身元保証人を求めなくても済むような制度について、病院で66%、施設で64%が必要と答えている。
具体的な制度では、病院の97%、施設の95%が自治体や社会福祉協議会などの公的機関が保証する制度や仕組みの創設・整備を望んでいる。
保証制度に代わるもの(複数回答)としては「行政などによるセーフティーネットづくり」(病院62%、施設57%)が最も多い。「後見人が(埋葬許可などの)死後事務ができるよう法改正を望む」が続いた。
病院や施設が身元保証人を求める際、多くがその役割に債務の連帯保証を含むのを疑問視する声もある。シニアライフ情報センターの池田代表理事は「身元引き受けと債務保証の役割を分ければ保証人を立てやすくなる」と指摘する。
(大橋正也)