穏やかで理知的な空気をまとう松下だが、内側に燃えるように熱いものを秘めているようだ。その熱は、俳優として彼をステージで光り輝かせる源にほかならない。その強い熱があったからこそ、彼は音楽を諦めることがなかったのだ。

「表立った音楽活動から距離を置いて10年ですが、その間も仕事やプライベートで出合った感情を、『この感覚、曲になりそうだな』『この気持ちを曲で残せたらいいのに』という思いは、ずっと途切れませんでした。10代の僕がそうだったように…いや俳優として活動するようになってなおさら、思いを曲にして吐き出すという作業が必要不可欠になっていったんだと思います。
だから、誰が聴くわけでもないけれど、ピアノを弾いて歌を作り続けていました。でも、そうやって完成した曲は自分にとっては思い入れも人一倍あるので、やっぱり今度は誰かに聴いてほしくなり、年に1度ですが、小さな箱でのライブを細々と続けてきました。
すると、『今日、ライブで聴いてもらった曲がCDになって次のライブのときにみんなで一緒に歌えたら、きっと楽しいだろうなぁ』とか、『オーケストラや素敵なバンドメンバーがいて、お客さんもたくさん来てくださって、そこでこの曲を歌えたらどんなにいいだろう』と、かつての夢がうずきだしたりして(笑)。
一生懸命に作った曲という種を、ライブに来てくださった方だけにそっと見せ、またポケットにしまい込むということを繰り返していくうちに、『大事に作った曲なのに、自分がふがいないばかりに音楽の種を育てる畑もなく水をやることもできないのか』と思うと、自分にフラストレーションを感じることも増えましたね。
でも、ありがたいことに俳優として活動の場が広がっていろいろな経験をさせてもらうようになったときに、しまい込んでいた音楽の種たちをこの新しい経験のなかで広がった自分の畑にまた植えてみたいと思うようになりました。ただ、音楽の種を俳優という畑には植えられないから、その種をポケットから出すことはできない。だから、『もう一度デビューしたい』というのは、僕にとって密かな思いでした。
でも俳優として知ってもらえるようになることで、いつかは自分の音楽のことにも興味を持ってもらえるんじゃないかと希望的な観測も抱くようになって。結局、俳優の仕事が順調であるほど、自分の中で音楽への可能性を捨てきれなくなっていったんだと思います。
朝ドラに出演させていただき、たくさんの方が僕を知ってくださったことでそれまで人知れずやってきた音楽にも興味を持ってもらえるようになって。そのタイミングで、音楽でもう1度勝負させてもらえる機会をいただいたので、今このタイミングしかないと思い、デビューが決まりました」