チャーチルに習う 胸ポケットのハンカチは手拭き用服飾評論家 出石尚三

19世紀の英国からフランスへと広がったダンディズムとは、表面的なおしゃれとは異なる、洗練された身だしなみや教養、生活様式へのこだわりを表します。服飾評論家、出石尚三氏が、著名人の奥深いダンディズムについて考察します。



チャーチルのルーツは「大貴族」

私たちがその名に親しむ英国の元首相、ウィンストン・チャーチルは大貴族を先祖に持ちます。「マールバラ公爵家」がそれです。

1700年代初頭にスペインの王位継承をめぐって欧州諸国が行った戦争で、仏軍を破るなどの功績をあげたジョン・チャーチルが、アン女王から「デューク・オブ・マールバラ」の称号を受けて以来の名家であり、大貴族といって間違いありません。

ウィンストン・チャーチルは1874年、2000エーカーの敷地を有するブレナム宮殿で誕生しました。2000エーカーとは、東京都台東区の8割くらいにあたる面積です。門から玄関まで歩くだけで、くたびれてしまいそうな広大さです。

そもそもイギリスで「パレス」と呼ぶにふさわしい建物は3つだけだと思います。エリザベス女王のバッキンガム宮殿、英国国教会のカンタベリー大主教のランベス宮殿、そしてチャーチル家のブレナム宮殿です。このことからも、マールバラ公爵家が貴族の中の貴族であることがわかろうというものです。

第2次世界大戦中、チャーチルの「絹の下着」がやり玉に挙がったことがあります。英国の一流紙が、チャーチルが絹の下着を着けているのはぜいたくだと非難したのです。なにしろ第2次大戦中は英国も質素倹約の真っ最中でしたから。

この新聞の論調に対して、チャーチルはこう反論しました。

「私の下腹部は、至って敏感なもので」

これで、新聞のキャンペーンも沙汰やみになったということです。

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胸ポケットのハンカチ、飾りではなかった