今、取り入れるなら…身構えず気軽に
今ではハンカチーフをきちんと折って、ポケットから1つの山を見せたり3つの山を見せたりと、いくつかの流儀があります。ところがチャーチルは、必ず、絶対に、胸ポケットにハンカチーフを無造作に挿していました。
例えば1945年5月8日。首相官邸を出たチャーチルはバッキンガム宮殿に赴き、バルコニーから戦争終結を宣言しました。おなじみの葉巻にボウタイ姿。その時も上着の胸ポケットには、白麻のハンカチーフが無造作に挿されていました。
なぜ、チャーチルはそのようなスタイルを貫いたのか。理由は定かではありませんが、「私のハンカチーフは昔の通り、実用でもあります」ということを示すサインだったのかもしれません。ファッションではあるけれども、決して形ばかりのものではありませんよ、と。
ファッションにおいては、実用のものが単なる装飾に転じていくことがよくあります。ポケットハンカチーフはその典型例といえましょう。
昨今、このポケットハンカチーフは注目のアイテムの1つになっています。ネクタイを着けなくなった代わりに、アクセントとして用いたいということなのでしょう。ただ、どのような素材のものをどう挿せばいいのか、スタイルに迷う方々も多いと聞きます。
いえいえ、考え込む必要はありません。チャーチルが示すように、ポケットハンカチーフは本来、実用的なものであり、さりげないものなのです。だから、身構えず、気軽に取り入れればいいのです。
逆に、こうも言えます。もし、上流階級の紳士に見られたいのなら、ポケットハンカチーフは、チャーチルに見習うべし、と。

服飾評論家。1944年高松市生まれ。19歳の時に業界紙編集長と出会ったことをきっかけに服飾評論家の元で働き、ファッション記事を書き始める。23歳で独立。著書に「完本ブルー・ジーンズ」(新潮社)「ロレックスの秘密」(講談社)「男はなぜネクタイを結ぶのか」(新潮社)「フィリップ・マーロウのダンディズム」(集英社)などがある。
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