おバカなキャラがやめられません
著述家、湯山玲子
ニコニコしているためか、悩みがないおバカな人間と思われがちで、最近はキャラを崩せず、わざとばかなことを言ってしまいます。ふりかえれば大学に落ち、就職先は破綻。夫がうつで休職したときもきつさを顔に出さず支えたつもりです。色々悩んできたのに「お気楽でいいわね」とか言われると「ははは、ほんとね」と返す自分。このままでよいのでしょうか。(東京都・女性・40代)
日本はイジメ社会です。
学校でのそれが社会問題になっていますが、大人の社会にしても会社や地域やママ友の間でイジメは普通に存在します。普通どころか、インターネットの登場でコミュニケーションが変わり、グローバル化やら、不況やら、少子高齢化で社会のシステムが激変しているこの数年、イジメ行為はストレス発散のはけ口になってもいます。
そんな社会で生きるために、人は自然とイジメに対する防御方法を身につけるようになります。そのひとつが「下手に出る」という生き方。
「私はバカで善良なのでイジメないでください」という態度は、すなわち相談者の「いつもニコニコ」という笑顔と、悩みなんてひとつもない「おバカでお気楽」な自己演出に直結するのです。
そもそも、女性は男よりもバカな方が生きて行く上でおトクという「世のならい」もあったりするので、相談者は無意識にそういった処世術を身につけてしまっているのかもしれません。
ちなみに、イジメが社会問題化した中で育ってきた若い世代、特に20、30代の女性に目立つ独特の会話作法があります。彼女たちは発言するたびに語尾に必ずといってよいほど「へへッ、へへッ」という空笑いを重ねてくる。その「へへッ」は「人を小馬鹿にした笑い」と同様なのですが、彼女たちにそんな気は毛頭なく、笑いを付け加えることで下手に出て、敵意を回避しようとしているのです。
さて、なぜこれらがダメなのか? 本来なら、ツライことも表に出さず笑顔で人と明るく付き合える人間は尊敬されて当然なのですが、相談者は周囲の人間から、そう思われていない。これはズバリ、彼らから「おバカキャラで下手に出ときゃ、人間関係は全部大丈夫」という相談者の策略が見透かされているから。そして他人から発せられる「軽い軽蔑」にいらつき始めているのではないか。
ならば、もうおバカキャラは卒業した方がいい。「お気楽でいいわね」と揶揄されたら、ヘラヘラ笑ってスルーするのではなく、真顔で「そんなことないよ!」ときちんと反論してみましょう。その言葉と態度によって、やっと相談者は周囲の人たちと対等になる。そうやって、自分の尊厳を保ってこそ、人間同士がいい形で繋がることが出来、人生を全うしていけるのだと思うのです。
◇ ◇ ◇
[日経プラスワン2016年12月3日付]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。