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立川談笑、らくご「虎の穴」

サンタの正体は? 創作落語「師走の夜話」立川談笑

2014/12/17

立川談笑、らくご「虎の穴」

国立演芸場(東京)で開いている月例独演会で、この12月9日に初めて掛けた創作落語「師走の夜話」をご紹介します。こんな落語を創ることもあります。抄録ながらボリュームはいつもの倍です。できたてのほやほやをゆったりとご覧下さい。今年もお疲れ様でした! 良い年末と、素敵な新年を迎えられますように!!!
高座に上がる落語家の立川談笑さん

暗く寒い師走の深夜、都内の住宅街で若い男がタクシーから降りてきた。年は30歳。降り際に運転手に向かって悪態をついていたのは、ずいぶん自宅を通り過ぎてしまったからだ。原因は彼自身が後部シートでぐっすり寝込んでいたためなのだが、そんなことは意に介さず運転手を罵った揚げ句、家路につく。

「あれ?こんなコンビニができてたんだ」

ふと立ち寄ったコンビニの店内に充満するおでんの匂いや店員のサンタコスプレに文句をつけながらレジに向かうと、そこに立っている店員はサンタクロースの格好をして白くて大きな髭をたくわえた、おじいさんだった。

「メリークリスマス! 今年もいい子でいた君に、サンタさんがプレゼントをあげようね。ここにある3枚のカードには『お金』『家庭』『魂』とある。どれでも好きなものを選んでごらん」

男は当惑しながらも1枚を選ぶ。

「『お金』だ! そうだね! それじゃ今からいい夢を見せてあげよう。見えないものが見えてくる。見えてるものが見えてくる……」

気づくと男はオフィスの椅子に座っていた。マンションの一室に事務机を3つ並べただけの粗末な空間だ。ぶ厚い書類ファイルが数冊と20台もの携帯電話。男は金庫を発見した。番号は知っているし鍵も持っている。そうだ、俺はここの社長なのだ。金庫の扉を開けるとそこにはビッシリと一万円札が詰まっていた。

そこへ社員のひとりが帰って来た。

「喜んで下さい社長! 電話じゃ10万ぽっちを出すの出せないの言ってた婆さんが、行ってみたら500万も用意してたんですよ! 『こんなに素晴らしい商品は、お友達にもまたそのお友達にも買ってあげるの』だって。何セット売れたと思います? 社長の言う通り、年寄りは脅す・脅す・持ち上げる、に限りますね!」

サンタの視線に気づいて我に返ると、先ほどと変わらぬコンビニのレジ前だ。

「しあわせかい?」

「冗談じゃない! こんなオレオレ詐欺みたいな商売はまっぴらだ!」

「おやおや。抱えているバッグの中を見てごらん」

セカンドバッグを開くと何冊もの預金通帳がある。開くとどれも途方もない預金高だ。いったい、どこまでが幻想なのか。

2枚目に引いたカードは、『家庭』。

マンションの前に立っている。エントランスを抜けエレベーターを上がり、慣れた手つきでドアを開ける。彼の前に、ハッとするほど美しい女性が笑顔で出迎えた。妻だ。男の仕事の辛さをいたわり、身体を心配してくれる。男が経営する会社の業績がこのところはかばかしくないのも、証券取引関係だというのもすべて真っ赤なウソなのに、彼女は心底男を慕って支えようとしてくれている。小ぶりのクリスマスツリーの横には「パパの似顔絵」。クレヨンで描かれているのは、タバコを片手に、妙な形のあごひげと派手なピアスをした笑顔だ。来年から小学校だな。幼い娘の寝顔を見つめた後、男はやり残した仕事を思い出したと言い残して家を出る。

こちらはもう一つのマンション。ずいぶん高級そうだ。鍵を使ってドアを開けると、黄色い悲鳴が上がった。濡れ髪から湯気を上げ、バスローブ姿で目を真ん丸に見開いている長身美女の職業はモデル。関係は3年来になる、男の愛人だ。2人の間ではすでに、将来は再婚して正妻に迎える約束もしている。

「驚かせてゴメン。実は、話したいことがあって…」

そこへバスルームから若い男の声が響いた。

「あゆみさーん!こっちの青い歯ブラシを使っていいんでしたっけー?」

声を失い、玄関でたたずむ2人。

「しあわせかい?」

コンビニのレジ前。

「ぜんぜん幸せじゃないってば! なんなんだよ、これ。あんたが本物のサンタクロースだったら、サンタなんて最悪だよ」

男に耳を貸さず、サンタはカードに手を伸ばした。

「3枚目。『魂』…」

男は深く息を吸い込むと、ゆっくりと周囲を見渡す。広がるのは雪景色。男の故郷だ。懐かしい我が家を訪れると、父母がひたすらに温かく昔と何も変わらない。

風呂に入って父親の背中を流す。背中越しに鏡に映った父の顔をみていた男が、「あっ!」と声を上げた。

「分かった! さっきのあれも、今のこれも、ぜんぶ父ちゃんの仕業だな。ほうら、さっきコンビニにいた、あのサンタクロースだ。そうなんだろ!?」

鏡に映った顔に石鹸の泡をなで付けると、白い大きな髭をたくわえたコンビニのサンタと瓜二つだ。

「うっはっは。何の事だか分からねえな」

父は湯船につかると心地よさそうに歌を歌いだした。

「砂漠に陽が落ちて~、夜となる頃~」

『アラビアの唄』。もう何年も思い出すことすらなかったが、男が一番大好きな歌だった。聞けば祖父の愛唱歌だという。

「お前はおじいちゃん子だったからなあ」

風呂から上がると、親子水入らずの晩酌だ。

「あらー。おめえも酒飲む年か! 初めてだな。せがれと一緒に飲めて嬉しいなあ。東京で会社やってるってな。偉くなったら次は嫁さんだな。え? もらった? いつ? あららら、ら。そんじゃあ、次は孫だ。え? できた? いつ? あららら、ら、らー。そんなもん、顔見せに連れて来い! なーんもねえとこだけど、じいちゃんとばあちゃんが待ってるから、ってよ! あははは、はー」

父の大らかな笑い声と懐かしい母の味とが相まって、男の胸を詰まらせる。

「なあ父ちゃん、母ちゃん。俺はさ! 俺は今まで……」

「お客さん、お釣り。お釣り!」

目の前では、おざなりのサンタ衣装を着せられた若いアルバイトが苛立たしげに小銭とレシートを突き出している。コンビニだ。背後には客の列が不満顔を並べていた。

「あ。すいません」

コンビニを出た男は、寒風に思わず身を固くする。年の瀬の深夜だ。

(照明が暗転し、スポットライトが当たる)

「うう~、寒びいっ」

ポケットからタバコを取り出しライターで火をつけかけて、やめた。ふいにライターもろともタバコを箱ごとコンビニのゴミ箱に投げ入れると、その瞬間、コンビニのドアガラスに映った自分の姿に目が留まった。細身のスーツ。今時のヤンチャな形のあご髭。耳にはいくつものピアス。腕や首、胸元からのぞく大小のタトゥー。これが俺か? これが俺だ。

男は他人事のように「ふうん」と一言つぶやくと無表情で歩き出した。

「さーばくーに、ひはおちてー。よーるとなーる、こおーろー」

ぽつりぽつりと歌いながら、スマホを取り出す。電話。

「お? 俺。いきなりだけど、来年から商売替えるから。年寄りの弱みにつけこむようなことはやめて、まともな商売するぞ。『何するのか』? 知らねえよ! 俺が考える。心配するな。じゃあな」

「こーいびとーよ、なつかしい。うーたを、うーたおおよー」

次の電話。

「ああ、俺。急で悪いけど俺たち、別れようや。考えたけど、嫁さんと娘が俺には大事だよ。大声出すなよ! 俺はもうおまえの金ヅルは御免なの。だからさ! 早い話、誰かと一緒に歯ブラシを使いたくねえんだ。…そういうこと」

「寂しいこの調べに、今日もなーみだ、なーがそおー。こーいびとーよ、アラビアのー……」

電話。

「まだ起きてた? だよな。いま帰り。もう近くなんだ。で、帰ったら、いろいろと話を聞いてほしいんだ。ぜんぶ正直に言うよ。謝る話ばっかり。あはは」

「それから……。今度の正月、一度俺の田舎に帰ってみないか? 家族みんなでさ。行ったって、田舎だし雪しかないし本当に何にもないところだけど。なんだか急におやじとおふくろの、墓参りがしたくなってさ」

「あれ。雪だ。雪が降って来た!(BGMでビング・クロスビーの『 SANTA CLAUS IS COMIN’TO TOWN 』が流れる)これって、ホワイトクリスマスじゃね? 積もるよ。この雪は絶対積もるって! 俺いまからダッシュで家まで帰る。転びやしないよ! 一秒でも早くおまえと娘の顔を見たいからさ」

「いつもありがとう。大好きだよ。メリークリスマス!」(照明が完全に暗転する)

「俺、分かったんだ。サンタクロースって、本当にいるんだよ! しかも、サンタの正体って、俺のおやじだったんだ! いや、アハハじゃなくて……」

おしまい。m( )m

来年も趣向を凝らした新作などにドンドン、チャレンジします! ぜひ、独演会や一門会にご来場ください!

(次回は新年1月1日に更新予定)

立川談笑(たてかわ・だんしょう) 1965年、東京都江東区で生まれる。海城高校から早稲田大学法学部へ。高校時代は柔道で体を鍛え、大学時代は六法全書で知識を蓄える。予備校講師など様々なアルバイトを経験し、93年に立川談志に入門。立川談生を名乗る。テレビの情報番組でリポーターを務めながら芸を磨く。96年に二つ目昇進、2003年に談笑に改名。05年に真打ち昇進。古典落語をもとにブラックジョークを交えた改作に定評がある。十八番は「居酒屋」を改作した「イラサリマケー」など。
<今後の予定>都内での独演会2015年1月5日、2月8日、3月14日、4月21日、吉笑(二つ目)、笑二(同)、笑笑(前座)の弟子3人とともに武蔵野公会堂(東京都武蔵野市)で開く一門会12月19日、15年1月16日の予定。
立川談笑HP http://www.danshou.jp/ 
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