学生自ら研究費を獲得 東大生らコロナ対策に新発想

下水中のウイルスを検出して感染症の拡大防止に役立てる=東京大学提供
下水中のウイルスを検出して感染症の拡大防止に役立てる=東京大学提供

学生が大学や外部から直接資金を獲得して研究を進める動きが広がっている。これまでは所属する研究室の教員から研究費を受け取るケースが多く、学生が研究したい内容と研究室の方針が違えば資金が得られず、涙をのむケースも少なくなかった。粗削りでも学生の柔軟な発想を研究に生かし、大学の研究力を向上する狙いもある。

東京大学工学系研究科は2020年4月、学生・教職員を対象に「ポストコロナ社会の未来構想」と題して研究アイデアを募集した。29件のテーマを採択し、そのうち9件の学生が提案した研究に総額530万円程度を支援した。

使命感強まる

同大学博士課程3年の鳥居将太郎さんは下水から新たな感染症の拡大を早期に発見する手法の開発で採択された。現状では無症状で検査を受けていない人を把握できなかったり、感染から発症して検査を受けるまでに時間差が生じたりする課題がある。

すでに下水中に含まれる新型コロナウイルスを検出する手法を開発し、東京都の下水中からウイルスの検出に成功した。今後は検出したウイルスの濃度から感染者数を推定できるようにする。鳥居さんは「うまく成果を出さなければという使命感がある」と話す。大学から直接資金を獲得したことで、研究に対する責任感は高まったという。

東大は今回採択したテーマで得られた成果の実用化も後押しする。21年3月には政府機関や企業など学外にも成果を発表する報告会を開く。ウイルスを不活化する高機能マスクや、現実とオンラインを組み合わせて交流を促す会議システムなども発表される予定だ。

優れた研究成果なら実用化に結びつく可能性もある。未来構想をけん引する東大の塩見淳一郎教授は「学生は常に我々の想像を超えてくる」と期待する。学生の発案によって始めた研究成果が事業化につながれば、大学の研究力の底上げにもなる。

学生が主体になって進める研究を積極的に後押ししているのが八戸工業大学だ。同大学の「学生チャレンジプロジェクト事業」は13年に開始した。自発的な発想で調査や研究をして、学生自身の成長につなげる狙いもある。20年度は新型コロナウイルスの感染拡大防止につながるテーマを幅広く募集した。

学部1年生の三田知広さんと三橋令旺さんは、大学の公式LINEをつくろうとプロジェクトに応募した。大学入学後、授業がオンラインに切り替わったり、休講になったりした。大学のポータルサイトには、オンライン授業への切り替えやコロナ下で実施できなかった授業の補講の情報が上がるが、サイトにログインしないと見られない。三田さんは「通知のようなシステムができれば誰でも見られる」と問題意識を抱いた。

改善するために、ポータルサイトの情報とLINEを同期する提案をして採択された。LINEで通知が来れば、多くの学生が受動的に情報を得られる。開発に成功すれば特許を取得し、学内だけでなく学外での利用も見込む。

学生が主体になる良さとして、三田さんは「研究室での研究は『やらなきゃいけない』という強制力がある。今回は好きなテーマなので前向きに取り組める」と話す。開発の実績は卒業後にもつながる。プロジェクトをとりまとめる八戸工大社会連携学術推進室の黒滝泰世さんは「この活動を通して将来やりたいことが見つかったらいい」と学生の成長に期待する。

クラウドファンディング活用事例も

学生自ら研究資金をクラウドファンディング(CF)で集める動きもある。岩手大学の大学院生の青木聡樹さんはキノコが含む化学成分の研究のための資金を集めた。

日本には約5000種のキノコがある。食べたり薬になったりしているキノコは100種ほどだ。利用しているキノコの研究に比べ、まだ使われていない未利用キノコの研究は注目されにくい。だが、有用な新しい成分が見つかる可能性を秘めている。

青木さんは未利用キノコに着目したが、研究資金が十分でなかった。「あと少しで論文になるのに試薬などが足りず研究が滞っていた」(青木さん)。約20万円の資金を獲得し、実験の試薬や論文投稿時の英文校閲を依頼するのに使った。

研究成果も出た。ツキヨタケというキノコの菌糸から、新たな化合物を見つけた。青木さんは「研究費をもらえるだけでなく、いろいろな人から研究の支持が得られ、モチベーションにつながる」と話す。

日本初の学術系クラウドファンディングを運営するアカデミストによると、全提案のうち4分の1が学生で、資金獲得の成功率は92%だ。若い学生の積極的な提案を支援する輪が広がりつつあり、毎年10~20人の学生が挑戦している。

学生自らが研究資金の獲得に動く背景には、研究費の減少がある。大学における基礎的な研究資金となる運営交付金は年々減っている。研究室の予算が限られるなか、学生自ら資金面でも獲得に動かないと満足な研究活動ができない恐れがある。

また大学側にとっても、学生が研究室という垣根に縛られず自由な発想で研究に励めば、予想しないような成果が生まれるという期待もある。

(下野谷涼子)

[日本経済新聞朝刊2021年2月10日付]

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