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国境越える映画作家 ファルハディ、デプレシャン

カンヌ映画祭リポート2013(5)

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NIKKEI STYLE

「別離」(2011年)のアスガー・ファルハディ監督は、今、世界の映画人に最も注目されているイラン人監督だ。41歳。アッバス・キアロスタミやアミール・ナデリといった巨匠の子どもの世代にあたる。

ベルリン国際映画祭金熊賞とアカデミー賞外国語映画賞を「別離」で射止めたファルハディは、次なる作品をフランスで撮った。17日にコンペに登場した新作「過去」の舞台はパリ。「アーティスト」のベレニス・ベジョを主演に迎え、ほとんどのセリフがフランス語だ。しかしながら、映画作家ファルハディの世界は見事に貫かれていた。

4年間の別居生活のあと、イラン人の夫(アリ・モサファ)がフランス人の妻(ベジョ)との離婚手続きを完了させるため、テヘランからパリに戻ってくる。夫は妻の家に着くや、妻と娘の関係が断絶していることを知る。夫は2人の関係修復を図ろうとするのだが、そのことによって妻や娘、妻の新しいパートナーらの間の隠されていた過去が次第にあらわになっていく……。

ファルハディ作品の特徴は、スリリングな状況設定と、そこで起こる繊細かつ濃密な心理描写にある。旅先の海辺で姿を消した保育士の行動を巡り、同行者の間に疑念と臆測が渦巻き、ウソにウソを重ねていく「彼女が消えた浜辺」(09年)しかり。老父の介護か海外移住かを巡り妻と対立していた夫が、ヘルパーの女性を追い出した事件をきっかけに、彼女の夫を含めた4人の男女が深刻な相互不信に陥っていく「別離」しかり。

限定された状況での心理ドラマは、ある意味で演劇的で、どんな場所でも起こりうる普遍性をもつ。そこがイランである必要はないし、イラン社会の特殊性によりかかった作り方はしていない。舞台をフランスにしたからといって、ファルハディのドラマには違和感がない。国境を軽々と越えるのだ。

大きな事件が次々と起きるわけではなく、ある状況に追い詰められた人物の心がざわめき、その波紋が他の人物にも広がっていき、やがて大きな渦となる。次に何が起こるかが読めず、ハラハラドキドキする。心理サスペンスと呼んでもよかろう。

「過去」でも、例えばイラン人の夫がどういう仕事をしていて、なぜ夫婦が別居したのかについて、ほとんど説明がない。だから、この家族の危機を社会的背景から読み解くことはできない。

ただ、ある家族が崩壊していく過程における様々な葛藤や疑念、嫉妬や罪悪感といった感情をリアルに描き出すのだ。世界中のどこでも、どんな時代でも起こりうる人間ドラマなのである。

ファルハディは17日の記者会見で映画の国籍についてどう考えるかと問われ、こう答えた。「世界のどこで仕事をしても、私はイランの映画作家だ。芸術作品に国籍のラベルを張ることは難しいし、それはあまり重要ではない。最も重要なのは観客と映画の結びつきだ。どの観客も映画をその人自身のものにすることができる」

◇            ◇

18日に上映された「ジミー・P」も映画作家が母国を離れて撮った作品である。フランスのアルノー・デプレシャン監督が米国を舞台に全編英語で撮った(ただし、フランス資本のフランス映画)。

物語はフランス人の精神分析家で、アメリカ先住民文化の専門家でもあるジョルジュ・デヴェローの著書「或る平原インディアンの精神治療記録」に基づく実話だ。第2次世界大戦に従軍したアメリカ先住民ブラックフット族のジミー・ピカード(ベニチオ・デル・トロ)は視覚や聴覚が減退するなど様々な障害を抱え、カンザス州の軍病院に入院している。原因を突き止められない病院は、デヴェロー(マチュー・アマルリック)を招き、ジミーとデヴェローの対話による治療が始まる。

心が深く傷つくこと、その傷を少しずついやすことはデプレシャン作品の底に流れる主題だろう。記者が1992年にカンヌで見た出世作「魂を救え!」から、やはり2004年にベネチア国際映画祭で見た「キングス&クイーン」まで、傷つくという感覚をこれほど繊細に美しく描き出す映画作家はほかに思い浮かばない。そんなデプレシャン映画の基調は、場所が米国であってもなんら変わらなかった。

デプレシャンはデヴェローの本に出合った時「これは私のために書かれた本だ」と思ったという。米国で撮ったことに関しては18日の記者会見でこう答えた。

「この物語は2人の男を軸に展開する。1人はモンタナから、もう1人はフランスから来て、どこでもない中間地点で出会う。そして米国人になる物語だ」

「ルノワールは『パリの靴修理屋ほどインドの靴修理屋に似ているものはない』と言った。私はこれが私の最初の米国映画であるとは思わない。私はこの映画を作らなくてはならず、それはそこでしか作れなかった」

映画作家がいとも簡単に外国で映画を撮るようになった背景には、国際共同制作の環境整備とと共に、グローバル化の進展で世界の都市や農村の生活が急速に均質化したこともあるだろう。ただ最も根本的なことは映画は発明時から国境を越えていたということだ。リュミエール兄弟は世界中にカメラマンを派遣して映画を撮り、映画を見せたのだから。

(カンヌ=編集委員 古賀重樹)

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