フィルムカメラ時代の古いレンズで幻想ショット
デジカメと合わせて個性的なボケも
フィルムカメラ時代の「オールドレンズ」をデジタルカメラに活用する動きが写真界で広がっている。特徴を作品づくりに生かす人気写真家・山本まりこ氏の撮影現場から魅力を探った。
「うわあ、きれい」「すごいすてき」――。
11月初め、雨上がりの新宿御苑(東京・新宿)で楽しそうに木の葉や花にカメラを向ける。ふんわりとした空気感と淡い色使いの「エアリーフォト」で高い支持を集める山本まりこ氏。今最も発信力のある人気写真家の一人だ。
天気も悪く、紅葉にも早い、あまり撮影に向くとは思えない状況だが、山本氏は意に介さない。世界をやわらかく写し出すお気に入りのレンズ「ズマリット50ミリ」があるから。「一年前、知り合いの写真家が出した本にこのレンズを使った作例があり、現代のレンズとはまったく異なる表現に一目ぼれした」そうだ。
同レンズは、ドイツの高級カメラブランド、ライカのレンズとして60年以上も前に製造されたものだが、マウントアダプターという器具を介することで、メーカーも規格もまったく異なる現代のミラーレスカメラに装着可能。山本氏もソニーのミラーレス機に付けている。「高尚なイメージのライカだが、手の出る価格で中古店で入手できた」
欠点を逆手に
これを機に様々なオールドレンズの表現が知りたくなり、試すように。出版社からの依頼もあり、スーパータクマー、ヘリオス、エルマー等々10種類のレンズを10の撮影旅行で紹介する「山本まりこのオールドレンズ撮り方ブック」(玄光社)を最近刊行した。
「日常的な風景や物を撮るだけで驚くほど現代レンズとの違いが実感できる」と山本氏。「よく言われるグルグルボケのほか、星形ボケも有名。私が好きなのはフレアやゴースト」と特徴を挙げる。被写体を中心に背景がうずを巻くように写るのがグルグルボケ。逆光のときに光の線が円弧状に入り込むのがフレア、"光カス"のように残るのがゴースト。点光源が星形になるのは旧ソ連製のインダスターというレンズだ。
実はこれらは開発途上のレンズに見られた欠点だった。だが山本氏はこれを「レンズの個性」とみる。「クセのないクリアな写真を好む人には向かないが、とろとろのボケでミルキーな画面や幻想的な作品を撮りたいときには威力を発揮する」。製造技術が進歩した現代のレンズでは「こうした個性は得られない」。
「ミラーレス機はレンズ効果などを反映した画像がファインダーや液晶モニターで撮影前に確認でき、それもオールドレンズに向く」そうだ。オートフォーカスが使えず、手動で焦点を合わせるなどの不自由さもあるが「逆に機械任せにせず、自分の意志を撮影に強く反映させられる」と欠点も逆手にとる。
入門書が続々
近年、山本氏のように特徴をよく知るプロが書いた入門書やムック本も多数登場している。昨年出た「オールドレンズの新しい教科書」(鈴木文彦著、技術評論社)のように、押し入れから出てきそうな古いレンズを多数紹介する入門書もある。一方で、一部人気レンズが中古市場やオークションで高値で取引されるなど愛好者の裾野は広がる。
ブームの火付け役となったのが、5年前に刊行が始まったムック本「オールドレンズ・ライフ」。発行元である玄光社の吉田寛企画編集部編集長は「ミラーレス機の登場以降、古いレンズを活用しようという人が増え、正しい情報が求められるようになった。フィルムレンズは膨大にあり、どの家庭にも眠っている。新しい表現やクセを発見する楽しみがマニアの枠を超えて広がっている」と話す。
(文化部 富田律之)
[日本経済新聞夕刊2016年11月8日付]
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