入社当時は「男性と同じように働くこと」でまずは1人前と認められることを目指し、その後は「女性ならではの視点」を求められた。結婚や出産も経ながら、女性の視点、母親の視点を生かして、駅トイレの照明を変えたり、ベビーカーを引く親にも優しいトイレやエレベーターを開発したりした。会社に貢献しつつも、育児との両立にどこか「私は迷惑をかけている」という思いがぬぐえなかった。

ところが10年代に入り、会社は従来以上に女性の活躍に力を入れるようになった。多様化する社会のニーズを捉えるため、同社の成長に欠かせないという意識が高まっていた。「会社の空気が変わり始めた」(高橋さん)。ダイバーシティ推進を看板に掲げる部署が発足し、企業風土や社員のマインドを変えると、会社から明確なメッセージが発せられた。

そうしたなか、高橋さんは第2子の産後8週間の休み明けの翌日に管理職採用試験を受けるように促される。社内の昇進昇格の時期から逆算しての要請が、たまたまそのタイミングとなった。「(女性を登用するという)会社の本気度を感じた」。育休明けに管理職に昇進。入社して10数年、ようやく「私は会社に必要とされている」と思うことができたと振り返る。

高橋社長は東急電鉄の取締役でもあり、冒頭で紹介したように折に触れ、「女性の活躍推進は喫緊の課題である」というメッセージを発している。グループの中核企業の経営トップから、管理職から、女性の活躍を本気で進めているというメッセージを受け取ることで、「ここにいてもいい。必要とされている」と思えるようになったのだ。

管理職に問われるトップメッセージを生かす力

女性に限らず、外国人、障がいのある人など組織でマイノリティーとなる人たちは、「自分はここにいていいのだろうか」「受け入れてもらえているか」といった不安を抱えがち。これを払拭するには、会社から「多様な人材を生かす」という力強いメッセージを発信することが必要である。そして、それを実践するのが、職場の管理職である。あらゆるメンバーが、自由に発言できるような心理的安全性が確保された環境をつくること。これも管理職の大きな役割である。

キリンビールの渡辺謙信さんはコロナ下、布施孝之社長が発したメッセージをヒントに部下との対話で発想の転換を図った

管理職はまた、トップからのメッセージを咀嚼(そしゃく)して、現場マネジメントで具体化することも求められる。第1回「コロナ下の上司 声かけや1on1で育児社員の不安を解消」に登場したキリンビールの広域販売推進統括本部セールスサポート部副部長、渡辺謙信さんの取り組みが参考になる。

渡辺さんは、コロナ下で布施孝之社長からのメッセージを受けて、部下との対話軸を変えたという。「仕事の意義の捉え方が変わることは、全社員が望む『幸せで豊かな人生』につながる」という言葉を聞き、自分なりにその意味を深く考え、子育て中の部下に対して「仕事より家庭、健康」という声がけをするようになった。

子育てや介護、健康問題など、社員はそれぞれ異なる事情を抱えている。多様な人材を生かすには、まずは経営トップが明確なメッセージを発信することが必要だ。それを受け止めて現場に根付かせる管理職の力も問われる。

次のページ
企業のミッション、ぶれない評価軸に落とし込む