女性迎えた鉄道の現場 「いいよ、俺やるから」は禁句多様なメンバーと働く 職場の対話術(4)

2021/7/12
東急電鉄池上線の戸越銀座駅(東京都品川区)近くで打ち合わせをする電気部の樋口さん(左)と佐藤さん。電気部は信号機、電車線、駅の配電所などすべての電気施設を保守管理する。※撮影のためにマスクを外していただきました(以下同)
脱・同質性の時代。様々なバックグラウンドを持つ人と共に働くことが当たり前となった。女性、シニア、外国人、障がいのある人、性的少数者(LGBT)、子育てや介護を担う人………。多様なメンバーが持ち味を生かしながら気持ちよく働くには、それぞれが互いの持つ背景を知り、尊重し合うための「対話」が必要だ。コロナ禍で突然迎えたテレワーク環境下、先進企業では、どんなコミュニケーションの工夫があるのか。ジャーナリストの野村浩子氏が報告する。

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男女雇用機会均等法の施行から35年。それでも、女子学生がもともと少ない理系の知識が求められる職場、あるいは、泊まり勤務がある職場で「メンバーは男性ばかり」というところもまだある。

第4回は、24時間体制で鉄道の電気系統の保守管理を担う現場に女性社員を迎えた東急電鉄のケースを紹介しよう。

初めて女性をメンバーとして受け入れ、人材として育てていくうえで、管理職は対話でどんな工夫をしているのか。テレワークの普及といった観点からは番外編となる「現場」を預かるチームからの報告だ。

5メートルの梯子も登る 電気部初の女性社員

「女なんていらないよ」「すぐ辞めるんじゃないか」

東急電鉄の電気部に女性初の技術員として配属された樋口真由さん(29)は、2010年の入社当初、先輩からこんな言葉をかけられた。

仕事を始めてほどなく、その言葉の意味が分かる。電気部は、駅や線路の電気系統の保守管理を担う。安全靴を履いてひたすら線路の上を歩き、駅や変電所を点検して回る日々。日中の暑い最中も、終電後の深夜も。電柱に登ったり、梯子(はしご)をかけて電線を点検したり……。

加えて入社した当時は、朝8時~午後4時55分の日中勤務のあとに休憩を挟んで深夜0時から翌朝5時まで働き、その3時間後の朝8時から再び日勤が始まるシフト勤務が、月8回ほどあった。同じ部署の先輩や同僚らと全く同じ24時間体制のシフト勤務に入って現場仕事を覚えていった。

樋口さんは大分の工業高校で学んだ。高校の先生から「東京の東急電鉄という会社で募集がある。女性初の歴史を作ってはどうか」といわれ、面白そうだと思い単身上京。弱音は一切吐かなかった。

「あいつ1人で頑張っているよね」。他部署に配属された同期の男性が、こう言ってくれたのが心の支えになった。電気部には17年以降、後進となる新卒の女性社員が1人また1人と配属され、樋口さんの所属する戸越メンテナンスセンターは、19年に2人目の女性社員を迎えた。

入社して10年、今や中堅社員となった。それでも今も、樋口さんには「ひとりでは難しい仕事」がある。線路と平行する形で真上に走る電車線の点検作業がそれだ。2人1組で線路を歩いていき、確認が必要と思われる箇所では梯子を電車線にかけて点検しなければならない。

梯子の長さは約5メートル。電車線にかけて、ユラユラ揺れるなか登っていく。何しろ梯子が重い。1人で持ち上げて立てかけることができないのだ。ともに作業をする同僚に声をかけ、「息を合わせて」(樋口さん)電車線にかける。

「手伝ってもらえませんか」。助けを求める言葉を発することも必要だ。そのとき「よっしゃ」と助けてくれる同僚がいてこそ仕事を完遂できる。そこでは男性も女性も関係ない。相互の信頼関係がないと、「声がけ」しながらの現場仕事は成り立たないのだ。

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女性に対して「優しすぎてはいけない」