未来の生活、「テレパシー」で見えた! 次世代端末競う
グーグルに挑戦状
スマートフォン(スマホ)に続く次世代端末として注目されるウエアラブル(身に着ける)機器。米グーグルが開発競争の先頭を走るが、3月、一人の日本人が挑戦状を突きつけた。「セカイカメラ」で拡張現実(AR)ブームを生んだ井口尊仁氏(49)だ。頭に着けた銀色の輪を通して、目の前の光景を親しい人に送る。「人生をシェアする」未来の生活像を聞いた。
3月、米国で開かれたインターネット関連の大イベント。その一角に「テレパシー・ワン」を発表する井口氏の姿があった。
銀一色の細身の輪。右目の前に突き出た部分の内側から映像を投映、5インチ相当の画面が目の前に浮かぶ。逆に外側には、自分の見ている光景を記録するカメラを備える。声、本体へのタッチ、カメラの前での身ぶりで操作。スマホを介してネットに接続する。
「人と人とが親密につながり、人生の重要なシーンを共有できる端末です。機能はシンプル。目の前の光景を友人と一緒に見る、写真に撮る、録画する。相手側は同じテレパシーはもちろん、スマホでもパソコンでも構いません」
「例えば子供がテレパシーを着けて初めて釣りに行く。父は入院していて画面を通じて見守る。『お父さん、大きいのがかかったよ』『引け、引くんだ』。両手がふさがっていても、大事な体験を共有できます」
「あるいはカフェでかわいい女性の店員がいた。自分も女性もテレパシーを着けている。一目見て恋に落ちたら、端末をタッチ操作し、好きだというサインを送信する。向こうからも返信が来たら……。まさにテレパシーを感じませんか」
井口氏はアプリ開発の頓智ドット(東京・渋谷)の創業者。2008年発表のセカイカメラは、現実の風景にスマホを向けると、皆がその場所に残した感想や思いが浮かび上がる。世界で評価され300万ダウンロードを記録した。しかし、昨年11月に同社を離れ、今年1月にテレパシー(東京・渋谷)を設立。「スマホの限界」を感じたからだ。
「スマホを操作すること自体が『邪魔』。かわいい犬を見つけた。友達に見せたい。スマホを取り出し、アプリを起動し……。なんと13ステップかかります。これを限りなくゼロにしたい。瞬時に思考を共有できてこそソーシャルです」
ウエアラブル端末では、グーグルが「グーグル・グラス」で先行する。テレパシーの中核メンバーは光学、ソフトなど多様な専門家がそろうが、わずか8人。巨人にどう挑むのか。
「グーグルは数学の天才が何千人もいますが、それ自体が弱点。愛は数字で解けないし、セクシーは計算できない。向こうのデザインは眼鏡の域を出ませんが、テレパシーは建築家が手掛けてオブジェのよう。カメラの前で手でハートマークを作ったらメッセージを送るような、心を動かす使い方も提案します」
「新市場は1社では成立しない。その意味でグーグルは『仲間』でもある。向こうは多機能を追求し、テレパシーはソーシャル体験に特化する。お客に選択肢があることが大事です」
機能はまだ粗いが、会社設立から2カ月弱で試作機にこぎ着けた。「ゼロから開発すれば何億円も必要。でも、中核部品は日本メーカーに既にあった。量産も電機大手と組む。我々は日本の優れた技術を魅力的にまとめあげる役割です」
ウエアラブル端末には懸念もある。例えばプライバシー。相手に気づかれず撮影することも容易だ。「車には事故の、パソコンにはハッキングの危険がある。でも使うことはやめないでしょう。社会的な実験を経て、利便性と社会との折り合いを見つければいい」
まず米国で年内にも発売。限定販売されたグーグル・グラス試作機の1500ドルより安くする。「実験的に、ではなくマス市場で売れる商品にします」。セカイカメラに続く「2度目の頓知」はどう迎えられるだろうか。
(石森ゆう太)
▼ウエアラブル端末 常時身につけて使うインターネット端末。代表格は、年内の一般発売が見込まれる米グーグルの「グーグル・グラス」。眼鏡型で、目の前に小型画面が浮かび上がって見える。音声指示で目の前の風景を録画したり、キーワード検索の結果を表示したりできる。米アップルが腕時計型の「iウオッチ」を開発中と報道されるなど、世界的に競争が進んでいる。
[日経MJ2013年4月12日付]
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