懐かしのソフトビニール人形 復活の不思議
怪獣・ウルトラマン… 大人夢中
注文受付後、瞬時に売り切れることも
「最近は毎週のように新商品が出る。ファンも増えて入手競争は激しくなるばかり」。十数年来のソフビ愛好家という都内の40代男性は苦笑する。インターネット通販サイトに次々と新顔が登場するなかで、注目商品は「注文受け付け開始後、瞬時に売り切れることも珍しくない」という。
ホビー誌で専門コラム「そふび道」を連載する石坂和氏は「60~70年代に大流行し、90年代半ばと2000年代半ばにプチバブルがあった。ただ最近の人気ぶりは過去のブームと様相が違う」と話す。理由は購入者の変化。以前なら子供時代に親しんだ40代以上の男性が中心だったが、最近は10~20代男女が増えた。
特に大きな影響を与えたのが約3年前に参入したメディコム・トイ(東京・渋谷)。クマのフィギュア「ベアブリック」で知られる玩具メーカーだ。同社は新興メーカーからソフビを仕入れて販売。各社の独自デザインの怪獣なども扱った。
金型の投資額小さく、野心的な商品に挑戦
赤司竜彦社長は「ソフビは金型の投資額が小さく、既存商品に飽き足らない愛好家自らがメーカーにもなれる。市場活性化には、そうした可能性を示すべきと考えた」と話す。実際に独自ソフビの評価は高く、平均6000~7000円ながらネット通販で売り切れが相次いだ。
その後、11年に「タイガーマスク」の悪役レスラーや「仮面ライダー」初期の怪人など、長らく販売が途絶していたキャラクターの自社製造を開始。こちらも販売は好調だ。「独自デザインでも過去のキャラでも、売れ筋に追随せず、今の市場にない商品の開発を優先できるのがソフビの良いところ」(赤司社長)
初期投資が低い分、多品種少量の野心的な企画に取り組みやすいソフビの長所に気付いた企業はほかにもある。
女性向けキャラクター玩具などを扱うラナ(大阪市)は昨春、数十年ぶりに国産ソフビの販売を始めた。名前は「エドネーション」で、姿は「ミッキーマウス」。全量の製造を東京の下町に残るソフビ工場が担う。
百花繚乱が新しいファン呼び込む
主力サイズだけで74色を展開し累計販売は2万個に迫る。福本良・企画開発チームチーフマネージャーは「ヒットした色も原則、再生産しない。常に新色を展開し、商品を回転させる」と語る。購入者の過半は女性だ。
工芸品のようなソフビを作るのはCCP(東京・足立)。「キン肉マン」に登場する「超人」ソフビの筋肉は極めてリアル。延藤直紀社長は自衛官、プロキックボクサーを経験し、筋肉の知識に絶対の自信がある。
造形を突き詰める一方、ソフビと貴金属を併用した商品など話題作りにも熱心だ。プラチナのマスクにルビーの赤い目を付けた超人ソフビは45万円だったが、限定5個が瞬く間に売り切れた。
石坂氏の推計によると「現在のメーカー数は90社前後で、この約15年の間に10倍になり、今後さらに増える見込み」。冒険的な発想、多品種少量生産を受容する懐の深い市場が次々と新規参入企業を呼び込む。その百花繚乱(りょうらん)ぶりが、さらに新たなファンを招く好循環を生んでいる。(堀大介)
まず粘土で作った原型をロウで複製。これに銅メッキを施し、ロウだけ溶かして中空の金型を作る。金属を切削するプラモデルやフィギュアの金型に比べると「投資額は10分の1以下で、数十万円でもできる」(石坂氏)。
製法には日本独自のノウハウが多く、世界的にも珍しい。金型は安価ながら劣化しやすく、人形を型から抜き取る作業は熟練職人の技術が必要で量産性は高くない。このため大手玩具メーカーの一部幼児向け商品を除くと、多品種少量生産で希少性を打ち出すメーカーが多い。
[日経MJ2013年2月6日付]
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