メンタルケアの新手法「オープンダイアローグ」って?

写真はイメージ=123RF
日経Gooday(グッデイ)

今、精神医療の現場で、フィンランド発祥の新たなケアの手法「オープンダイアローグ(開かれた対話)」が注目を集めている。統合失調症の患者を、薬物治療を行わずに「対話」だけで回復に導いてきた実績があるからだ。コロナ禍では孤独を感じやすく、依存症に陥りやすくなったり、家族との距離感が変わって心身ともに疲れることもあるだろう。そこで、オープンダイアローグはどういうもので、なぜ人の心を癒やすのか、またその魅力や実践方法について、オープンダイアローグを第一線で実践する筑波大学・医学医療系教授で精神科医の斎藤環さんに、3回にわたって聞いていく。

対話によって自然に問題が解決されていく

――近年は、日本でも精神医療に携わる人向けのオープンダイアローグの教育研修が始まっており、精神医学の学会などでも講演やワークショップが盛んに行われています。斎藤さんも精神医療の現場でオープンダイアローグを実践するとともに、『まんが やってみたくなるオープンダイアローグ』(医学書院)など多数の著書を出されています。まずオープンダイアローグとは、どのようなものか、簡単に説明していただけますでしょうか。

オープンダイアローグを第一線で実践する筑波大学・医学医療系教授で精神科医の斎藤環さん

斎藤さん オープンダイアローグとは、1980年代にフィンランド・西ラップランド地方にあるケロプダス病院精神科で開発・実践されてきた、主に発症初期の統合失調症患者への治療的介入の手法です。実践のためのシステムやケアの思想も含まれます。

臨床の現場というと、医師と患者が1対1で向き合うシーンを思い浮かべる方が多いでしょうが、オープンダイアローグでは、患者、家族、専門家チーム(医師、看護師、心理士など)が輪になって「開かれた対話」を行います。また、その対話の最中、ときおり専門家同士がその場で感じたことを話し合い、それを当事者たちに聞いてもらうというリフレクティング(※後ほど説明)を挟みます。そこで生じる相互作用によって、自然に回復が起こるのです。

オープンダイアローグによるミーティングのイメージ

オープンダイアローグでは医師、看護師などの専門家チームと患者とその関係者らが輪になって対話をしていく(原画=123RF)

オープンダイアローグを導入した西ラップランド地方の報告(導入2年後の予後調査)では、統合失調症患者の入院治療期間が平均19日間に短縮され、抗精神薬が必要とされた事例は全体の35%(伝統的治療の場合は100%)になりました。さらに、2年後の再発率は24%(伝統的治療71%)、障害者手帳を受給している患者は23%(伝統的治療57%)と目覚ましい成果を上げています[注1]

薬をほとんど使わず、対話の実践だけで統合失調症を回復に導くというオープンダイアローグの登場は、精神医療の世界に大きな衝撃を与えました。今では、様々な国に広がり、イギリス、デンマーク、ドイツなどでは、オープンダイアローグが公的なメンタルヘルスサービスに組み込まれつつあります。

[注1]Seikkula, J., Olson, M. E. : The OPD approach to acute psychosis : Its poetics and micropolitics. Family Process, 2003;42(3):403-18.

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