「子どもの将来を考えると不安で眠れない」「自分が生きているうちに何とかしなくては……」。以前は若者の問題だった「ひきこもり」が長期化し、ひきこもり当事者の年齢が高齢化した結果、80代の高齢の親が50代の子どもの生活を支えるという状況が生まれている。中高年のひきこもりを巡る、いわゆる「8050問題」だ。ひきこもりは解決できるものなのか、心の病気とどのような関係があるのか、親や社会からの正しい支援とはどのようなものなのかについて、ひきこもり問題に長く関わってきた筑波大学・医学医療系教授で精神科医の斎藤環さんに聞く。
自力で解決するのは困難 高齢化傾向は今後も続く
――内閣府が行った調査では、40~64歳のひきこもり状態にある人は推計約61万人(2019年発表の調査)。対して15~39歳では推計約54万人(2016年発表の調査)というように、ひきこもりは、もはや若者だけの問題ではなくなっています。何もできないまま、自分も子も年をとっていくということで、親御さんにとっては切実な問題です。背景には、どのような事情があるのでしょうか。
斎藤さん まず、ひきこもりとは、病名や診断名ではなく、一つの状態を意味する言葉です。
(2)ほかの精神障害がその第一の原因とは考えにくい
(3)外出していても、家族以外との対人関係がない
この3点が当てはまる場合をひきこもりと考えます。
中高年のひきこもりが増えた背景には、二つのことがあると考えています。一つはひきこもり開始年齢の高齢化。20年前の調査では、最初にひきこもり始める平均年齢は15歳でしたが、現在は、21歳にまで上昇しています。何が起きているかというと、退職や病気、人間関係がうまくいかなかったといったことがきっかけで、就労経験がある人がひきこもる事例が増えているのです。現在は、不登校からひきこもりに移行する人は、全体の2割弱と割合としては少なくなってきています。
もう一つは、ひきこもりの長期化です。平均ひきこもり期間は約13年で、20年、30年に及ぶことも多い。ほとんどの場合、何とかなるだろうという漠然とした認識で家族が面倒を見てきたけれど、気づいたら20年、30年たってしまったというケースが多いように思います。
最初に申し上げておくと、長期間に及ぶひきこもり問題は、本人や家族の自助努力だけで解決することは、極めてまれです。自然な回復は期待できないものと理解して対応していかなければ、高齢化傾向は今後ますます顕著になるでしょう。
社会に支援を求めづらい日本ならではの事情
――斎藤さんは、かなり早い段階から、ひきこもりの高齢化問題に警鐘を鳴らしてきました。
斎藤さん そうですね。先の内閣府の調査でひきこもり状態になっている人の数は100万人超とされており、人口比で1%程度です。しかし、自治体の調査ではもっと多い。たとえば秋田県藤里町で2010年から約1年半かけて行われた全戸調査では、現役世代(18~55歳未満)の9%弱がひきこもりだとする数字が出ています。これを単純に日本の人口に当てはめると、1000万人を超える計算になります。ほかにも、ひきこもりの7割以上が40歳以上という自治体も存在します。ですから、実際の暗数はかなり多いのではないか。少なくとも中高年のひきこもりだけで100万人、ひきこもりの総数はその倍の200万人を超える、と私は見ています。
このまま中高年のひきこもりが増え続ければ、社会保障制度の破綻を招く可能性があります。一方で、ひきこもり当事者は外部の人間が家に入ることを嫌うので、親に介護が必要になってもうまく支援を求めることができません。さらに問題となるのは、親亡き後です。大半の当事者は、生活保護などの社会福祉制度の利用を申し出ないまま、ひきこもり続ける可能性があります。そうなると、孤独死や衰弱死が多発しかねません。