Men's Fashion

「ファッションとは隠れること」 慶大・中山俊宏教授

リーダーが語る 仕事の装い

慶応義塾大学教授 中山俊宏氏(上)

2021.11.29

「人からもし、おしゃれですね、なんて言われたらどう答えていいのかわからず困ってしまう。自分の装いにはある種のシステムがあり、毎朝、きょうは何を合わせようなどと楽しんだりしません。そういう意味でも私はおしゃれではない」と話す慶応義塾大学教授の中山俊宏さん(東京・大手町で)

国際政治学者、慶応義塾大学総合政策学部教授の中山俊宏さんが好むのは、「際立たない」装いだ。周囲にすっと溶け込む、ダークスーツと無地のネクタイ。ディテールやカットが個性的なテーラー仕立てのスーツを、実にさりげなく着こなす。アンダーステートメント(控えめな表現)な装いに徹し、「ダンディー」「おしゃれ」などと言われることは嫌い――。「こだわらないことが、こだわり」と語る中山さんの服装に対する考え方の原点は、1980年代半ば、青山学院高等部時代にあった。




金髪のテーラーとの出会い スーツの高揚感に目覚める

――出演されているテレビなどでは、スーツスタイルが多いですよね。ダンディーでスタイリッシュな先生というイメージを抱いている人は多いのではないでしょうか。

「(笑って)普段はジャージーですよ」

――意外です。

「総合政策学部がある湘南藤沢キャンパス(SFC)は郊外にあり、自宅から2時間近くかけて行きますから楽なジャージーや軽装が一番です。かばんは軽いナイロン仕様のバッグ。SFCでは、学生も都心を離れるという感覚ですから気張らない服装です。だから、今着ているこのスーツで授業をやったらコメディーになってしまいます。でも、服装で一貫して好きなのはスーツ。気分が高揚するのもスーツです」

――スリムフィットできれいなライン。オーダースーツですか。

「この10年はデザイナー、有田一成さんの『テーラー&カッター』でスーツやジャケットを作っています。昔は既製服のスーツを着ていましたが、スーツを着る高揚感みたいなものを感じることはまったくありませんでした。30代後半からメードトゥメジャー(パターンオーダー)を試すようになり、有田さんと出会いました」

「通っていたバーのマスターが、『がんこなテーラーさんがいる』と教えて下さったんです。イメージが湧かない場合は作ってくれないこともある、と聞いて面白そうだなと思いお店に飛び込んだら、イギリスで腕を磨いた金髪のテーラー、有田さんが迎えてくれました。ものづくりの発想も技術も、すごいなと。1発目は裏地がピンクの派手なスーツを作り、どんな服よりも着る楽しさと高揚感があることが分かりました。それからは有田さんにスーツを10着くらい、ジャケットやシャツも作っていただいています」

テーラー&カッターのスーツは細部に個性が光る。ベルのように広がった袖口、上着のボタンとそこから広がるラインはディナージャケットのようだ

――落ち着いたダークスーツかと思えば、袖口の形がフレアになっていたり、1つボタンがディナージャケット風になっていたりと美意識が感じられます。

「色はダークグレー。肩が立っていますし、袖口の形は(広がっている)フレア。有田さんの服はそもそもカッティングが派手なんです。それをいかに地味に着るかが私のテーマ。合わせるネクタイはソリッド(無地)がほとんどで、黒だけで10本くらい持っています。上着の着丈は長めで、タイトな方が好きです。最近体を鍛えて筋肉がついたので、座っていると少々きつく感じることもありますが、有田さんによれば体を服に合わせるようにしないといけない。スーツは肩がなんとなく引っ張られる感じで、ギプスみたいで、姿勢がよくなりますね」