2022/7/16

「ロゴは名前をわざわざ書かずにPFだけ。その方が控えめに表現できます。ダイヤルのギョシェ(彫り模様)は小さく現代的にしました。光の角度によって模様が見えてくる、そんな楽しみ方もできます。スーツを買った時にさわった感触だけでわくわくするような感じです。色は絶妙な色。今着けている『トンダ PF マイクロローター』はグレーに茶色を混ぜた温かみのある色にしました。時分を示すインデックスは外側に配しています。構造的には複雑ですが、目にいろいろなものが飛び込んでこないので、時刻の読み取りを邪魔しません」

この日テレーニさんが着けていたのは2021年9月に発売した「トンダ PF マイクロローター」。グレーに茶色をまぜて温かみを出したという絶妙な色は開発までに3カ月かかったという。ベゼルを囲む細かい刻みであるローレット加工、ケースから伸びるしずく型のラグはコレクションのアイデンティティー。知的でビジネススタイルにもぴったり合う

滞在5日 「スーツ5着、靴は3足」

――素材やつくりはぜいたくなのに、あまり服装を選ばないイメージですね。

「コロナによってライフスタイルが変わりました。我々は以前、フォーマルなイメージが大変強かったのですが、今はどんな場面でも着けられる時計を作っています。PFもエレガントでありながら、フォーマルになりすぎないライフスタイルに合っていると思いませんか。新作であるこの『トンダ PF GMT ラトラパンテ』はGMT(第二時間帯を示す機能)の驚異的な機構をシンプルに表現しました。時計では調和が大切、そして、何よりも一番大切なのは時刻が分かりやすいということなのです」

――時計の開発でも美観をとても大切にしていらっしゃいますが、ご自身の装いの哲学を教えてください。

「やはり、美観的なところと職人技、この2つで考えます。イタリア人特有なのかもしれませんが、ひとつのブランドで装わず、いくつかをミックスマッチしています。あとは快適性、素材の良さ、仕立ての良さで選びます。スーツであればまず生地を選び、次に仕立屋とともにデザインを決めていきます。洋服はすべてイタリアの生地で、紳士が一番洗練されているナポリかミラノで作っています。ちょっとしたひねりがあるデザインが好きですね。今回、日本には5日間滞在するのでスーツを5着、靴は3足持ってきました。リモート会議でも服装には気をつけています。美しいものを作るには、周りも美しいもので固めること。すべてが絵画を構成する一つの要素であるように考えないとね」

「イタリア人がスタイルの表現がうまいといわれるのは、身の回りに歴史的な文化が残され、触れることができるからではないでしょうか」

(聞き手はMen's Fashion編集長 松本和佳)

地球の未来が危ぶまれる中で高まるSDGs(持続可能な開発目標)の意識。一方で、世界各地で顕在化する格差社会。様々な構造が不安定化し、従来の価値観が大きく揺らいでいる。ファッションなど消費財の世界でも、サステナビリティー(持続可能性)やカジュアル・オールマイティーが太い価値軸となり、ステータスやハイセンスの象徴であった「ラグジュアリー」の概念が存在感を失いつつある。時代の転換期にラグジュアリーの定義は修正を迫られるのか。今後も付加価値として消費者に受容され続けるのか。関係者へのインタビューで探る。

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