キャパオーバーになった新人時代

――田北さんは三井物産の国内関連会社の社長では最年少ですが、経営者になる上で、どのようにして経験やビジネススキルを磨いたのですか。

経営者といっても、アルバイトを含め20人弱の小規模な会社です。ただ、経営には明確なビジョン、そして戦略が必要であり、未来をどう描くか、それを世の中にどう発信していくのか、多くの課題があります。事業計画を立て、プロダクトや財務、マーケティングも考えなくてはいけない。三井物産に入社して10年余りですが、海外やIT(情報技術)企業に出向するなど様々な経験をして、多くのことを身につけました。

入社1~2年目がつらかったと話す田北さん

――1番つらい思いをしたのはいつごろですか。

中国のテレビショッピング事業を担当していた、新入社員の2年間です。ビジネスの右も左もわからない中、重要パートナーである中国人社長の来日時のアテンドや国内顧客との引き合わせなどを一手に任され、正直キャパオーバーで、すごく大変な思いをしました。中国語なんて大学時代に第2外国語として学んだ程度ですから、満足に話せるわけがない。しかし、相手は社長さんですから、きちんと対応しないといけない。とはいえ、こんな大事な仕事、修羅場経験を新人に任せてくれるのも三井物産らしい、社風ですね。

――基本はICT(情報通信技術)部門ですが、最も刺激的だったのはどんな体験ですか。

20代半ばで4カ月間ですが、シリコンバレーに派遣された経験が大きいですね。現地にいる日本人の投資家や起業家、大手テック企業のエンジニアと親しくなりました。その際、アプリのプロダクト開発のノウハウやその重要性を学びました。ユーザーインターフェース(UI)をどうデザインすればいいのか、ネット分野の新規事業投資のイロハにも触れ、毎日がエキサイティングでした。

――その後、アジアの新興国に赴任しますね。

20代後半で、インドネシアの通信会社に出向し、3年余り駐在しました。ここでは初めて部下を持ちました。日本のように光通信関連のインフラが整っていない、そんな国で無線の高速通信サービスに普及をするという事業でしたが、現地の言葉も話せないし、初めての事業会社への出向ということもあり悪戦苦闘の日々。チームを指導して、営業企画を担い、法人営業もやり、最後は経営企画やカスタマーサクセス部門も経験しました。異文化の人たちを組織化して、売り上げを伸ばす厳しさを知りました。

メルカリ出向 チームビルディング学ぶ

――帰国後に出向したメルカリではどんな学びがありましたか。

帰国当初はメルカリという企業の存在も認識していなかったくらいなので、 ラッキーでしたね。当時のメルカリの本社社員数はまだ100人程度で、経営者の山田進太郎さんや小泉文明さんと一緒に仕事する機会が多かったです。データサイエンティストや有能なエンジニアも多数いたので、全く違う業界・カルチャーの会社で仕事ができるのは面白かったですね。小泉さんは独自の発想で組織作りを考え、新しいカルチャーを吹き込んでいた。費用対効果を考えたチームビルディングへの投資など、参考になったことは山のようにあります。

――三井物産は、アジア最大級の民間病院グループ、IHHヘルスケア(マレーシア)に巨額出資するなど海外でヘルスケア事業を強化してきました。国内ではなぜ小児向けの遠隔医療サービス事業に参入したのですか。

三井物産はアジアを中心とした地域のヘルスケアエコシステム構築を強化分野として事業化に取り組んでいますが、その核となるソリューションの発掘や育成は膝元である国内でも積極的に行っています。私が出向から本社に戻って遠隔医療の戦略を策定していたときに新型コロナウイルスの感染拡大が始まり、全てオンライン面談で案件を発掘しました。その発掘の中から投資先として決まったのが、「キッズドクター」を展開しているノーススター(東京・中央)です。

子供は夜間や休日に突然熱を出したり、おなかを壊したりし、親御さんを不安な思いにさせるケースが多いですよね。そんなときに無料のアプリ「キッズドクター」を通して、チャットで気軽に健康相談したり、必要な場合には提携医師によるオンライン診療や夜間往診を受けたりしてもらえば、育児の課題解決につながると考えました。今春からサービスを開始したチャット健康相談は、コロナ下でもあり、月間1000件を超す相談があるなど反応は上々ですね。

――今後の事業やキャリアの方向性は。

もちろんノーススターを成長させることが一番のミッションです。この事業は現時点で一般ユーザーへは無料で展開しており、提携先の医療機関からシステム料をもらう仕組みですが、それだけでは収益としては成り立たない。三井物産本体とも連携し、病児保育や小児向けの健康関連の物販やサービス事業など、事業を多角化して組み合わせて収益拡大を図る必要があります。

遠隔医療や夜間往診そのものは親御さんの1つの課題解決の手段でしかありません。キッズドクターとしては、育児をされている親御さんのニーズをしっかり汲み取り、医療以外の必要なサービスも組み入れた小児の健康を守る総合プラットフォームとなることを目指しています。そうすることによって、日本の少子化や子育て環境改善という課題解決に役立ちたいと考えています。

(代慶達也)

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