リノベ起業のラガーマン 転機は団地建て替えで見た涙リノベる社長 山下智弘氏(上)

山下智弘・リノベる社長。現役タッチラグビー選手でもあり、週3日のトレーニングは欠かさない

コロナ禍で日常の暮らしに関心が高まる中、リノベーションが注目を浴びている。スクラップ・アンド・ビルドが当たり前とされてきた日本の不動産・建設業界に新風を吹き込み、リノベーション市場拡大のけん引役となってきたのが2010年創業のベンチャー、リノベる(東京・港)だ。同社を率いる山下智弘氏(47)は、元ラガーマン。ラグビーのことしか頭になかった学生時代から、業界の風雲児への軌跡とは。

リノベるはリノベ向きの中古物件探しから住宅ローンの提案、設計、施工、インテリアやスマートホームの提案までをワンストップでできるサービスを核に毎年30%の成長を続ける。三井物産や東急、静岡銀行など大手企業からの資金調達にも成功、NTT都市開発とは街づくりを含めた幅広い分野で資本業務提携を結んでいる。日本経済新聞社が2020年に実施した「NEXTユニコーン調査」(企業価値100億円以上の未上場企業ランキング)では19位にランクインした。

タッチラグビーでW杯にも出場

日に焼けた精悍(せいかん)な顔つき。小柄ながら服の上からもわかる筋肉の隆起。同社社長の山下氏は元ラガーマンにして、現役のタッチラグビー選手でもある。タッチラグビーはタックルの代わりにボールを持った相手にタッチするラグビーで、ワールドカップ(W杯)も開かれている世界的なスポーツだ。山下氏は2019年のW杯・40歳以上の部に日本代表として出場。チームの銅メダル獲得に貢献し、現在も23年のW杯を目指し練習に励む。

会社経営者と現役の選手という二足の草鞋(わらじ)をはくパワーと情熱の源は、中3で始めたラグビーにある。野球一筋だった山下少年はある日、ラグビー部の友人から「試合に出るメンバーが足りない。お前は足が速いから試合だけでも出て」と声をかけられた。楕円球など触ったこともなかったが、途端に虜(とりこ)になった。

「ラグビーは体のゴツい人から細い人、足の遅い人、速い人までいろんな人がいて、それぞれに活躍の場がある。そこに面白さを感じたのと、野球と比べて人と人との関わりが強いと感じたのです。さっきまで一緒に遊んでいた仲間にも体ごとドカンとぶつかって倒しにいく。命の危険性もありますから、感覚を研ぎ澄まし、本気で関わらないといけない。その『本気』によって大量にアドレナリンが出る感覚が、僕の心に深く突き刺さりました」

大阪府立香里丘高校(大阪府枚方市)に入学後もラグビー一色。強豪校の多い関西では新参者かつ弱小チームだったが、高校ラグビーの全国大会、通称「花園」を目指して日夜、練習に励んだ。高3で名門、府立北野高校(大阪市)との戦いに負け、夢は潰えたが、この時の体験は強烈だった。

「当時僕は副キャプテンで、泣きながら3年間を振り返っていたら、チームメイトから『お前、何泣いてんの?まさか本気で花園行こうと思ってたん?』と言われたんです。そこで初めて心の底から本気だったのは僕だけだったことに気づいたのです。キャプテンでさえ花園なんてハナから目指していなかったと知って、取っ組み合いになりました。同窓会で今もその話が出ると皆、大笑いで、僕は『お前ら許さんぞ』と説教するのですが、僕は『これだ』と決めたものには熱狂するタイプ。ただ、今でもあの時のシーンが夢に出てくるんですよ。会社でも『本気なのは自分だけだった』なんてことにならないように気をつけなきゃいけません」

大学進学もラグビーができる環境を第一に考え、近畿大学理工学部を受験。ところが合格を喜んでくれると思っていた母に「働いてくれると思っていたのに」と泣かれ、ショックを受けた。両親は幼い頃に離婚。弟が2人おり、家計は楽ではなかった。

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「動物的に無理」 実業団ラグビーで挫折
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