こうした嘘や偏見は人の判断をむしばむ。さらにやっかいなことに、ノイズを除くことができるデータ分析も、人の「偏見」は排除できない。データ分析が排除できるのは、本来は5年と求刑すべき犯罪に対して、裁判官が誤って6年、10年と求刑してしまうことだ。一方で例えばアジア人には同じ犯罪でも、5年ではなく10年の刑を科すべきだという誤った偏見を多くの裁判官が持っていたら、データ分析もアジア人を差別し始める(こんな事実があると、先に述べたように「データは完璧じゃないから、無視しよう」などと、また極論に振り戻されてしまうであろう)。
こうした過ちを犯さないように、我々は触れる情報の真偽について熟考して「嘘・偏見」を見抜き、正しい判断をしなくてはならない。
どうすれば熟考できるのか? 筆者なりにバーグストローム氏の方法をまとめなおすと、①自分にとって分かりやすい結論に飛び付かない②他の結論がないかを考える③結論にまつわる数字は自分で再計算する――の3つになる。
人はついつい、自分がわかりやすい話に飛びついてしまう。でも世の中はそんなに単純ではない。例えば、ある米国の女優のスキャンダルのせいでテレビ番組が中止になったことがある。当然、製作会社の株価も下がりそうだ。新聞社も「番組が中止になり、株価が2%下落!」と速報を打つ。だが実際は、製作会社の株価はスキャンダルの前から下がっていた。できすぎた話には、きっと違う話がある。そうした話に飛びつかずに、事実を丁寧に確認すれば、だまされることはなくなる。
数字をチェックすることも大事だ。会議で自社の新しい携帯電話の年間出荷台数は90億台などと言われたら、疑ったほうがいい。世界の人口は80億人で、1人1台以上年間持つことになる。きっとあり得ない。
頼りない人間の判断、組織での対策が必須
結局のところ、今回紹介した2冊が示すように、人間の判断は頼りない。本来は人の手から離すか、人の恣意性が入らない対策が必要になるが、こうした理解を持っていない人が多い会社の中ではやりにくい行為だ。
もしあなたの組織が対策をうてないのであれば、まずはあなた自身が判断の質をあげなくてはいけないであろう。
