ゼネラリストに先はあるか キャリアの悩みに答える2冊
【新任役員の苦悩】編 (5) 自分の仕事に疑問を感じたとき
会社員社長1年目の教科書トップがきちんと把握しておくべきマネジメントの基本とは何か。目の前の問題解決で実績をあげ、社長に上り詰めたとき、ふと不安がよぎったり自信が持てなくなったりする瞬間が訪れるかもしれない。そんな瞬間はマネジメントの一角を担う役員昇格のときにも訪れる。社長の悩みに寄り添ってきた気鋭のコンサルタントが意思決定のよりどころになる経営書を紹介するシリーズの後半は、そんな新任役員に向けてお届けする。
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「いつまでこんなことを続けるのだろうか」
どこかでそう思っている。さまつなトラブルや、社長の思いつきを処理する毎日だ。ふと振り返ると、一体自分は何ができる人間なのだろうかと不安に襲われる。はたして自分はこのまま会社の歯車として引退して、終わっていくのだろうか。
自分の経験は無駄ではないかもしれない
日本の会社員のキャリアはとても曖昧だ。文系就職の人は、営業、人事・総務と転々としていく。理系で研究職に就いても、徐々に企画系の仕事に割り当てられたりする。そうした先に何があるかは曖昧だ。
だがもしかしたら、そんなキャリアも無駄ではないかもしれない。と思わせてくれるのが、デイビッド・エプスタイン『RANGE(レンジ) 知識の「幅」が最強の武器になる』(東方雅美訳、日経BP)だ。
この本の要点は2つある。①自分の専門領域を決めるタイミングは遅くてもいいので、いろいろなことを経験しよう②そうして得た様々な知識を応用する力があれば、答えがない難しい問いにも立ち向かえる――というものだ。
我々がメディアで目にするスポーツ・芸術などで成功を収めている人は、子供のころから専門に特化した練習に明け暮れているように見える。世界的に有名なのが、タイガー・ウッズの父の指導法だ。彼は息子がまだ会話ができない段階で、絵でクラブのスウィングの仕方を教え、息子の多くの時間をゴルフの練習に注ぎ込んだ。タイガーがその結果、世界的なゴルファーになったのは言うまでもない。
早くからの専門特化がやはり大事に見えるが、現実はそんなに単純ではない。例えば多くの大会で優勝しているテニス選手のロジャー・フェデラーは、幼少期にサッカー、スカッシュ、スキー、レスリング、水泳、スケートボード、バスケットボール、ハンドボール、卓球、バドミントンと幅広いスポーツに打ち込んでいる。彼がテニスに集中し始めたのは、ウッズの父の基準からいうとだいぶ遅い。
どうやらこれは偶然ではないらしい。2014年のワールドカップを制したドイツ代表の選手の多くは、22歳くらいまではアマチュアのレベルでサッカーをしていたそうだ。子供の頃は当然、サッカー以外のスポーツも自由に楽しんでいた。自分に合うものを見つけるまでに、さまざま経験をすることはとても重要な時間だということだ。
こうした知識・経験の幅は、ビジネスの世界でも大事だ。幅広い知識を応用して成功した例として本書で出てくるのは、任天堂の横井軍平氏の例だ。横井氏はピアノ、社交ダンス、合唱、素潜り、鉄道模型、自動車いじりなど趣味が多かった。そうした横井氏の趣味心から生まれた商品が、任天堂のおもちゃとして売られていく。
写真はイメージ=PIXTA
彼は決して1つのことに打ち込んで、「最先端」の知識を使っていたわけではない。むしろ、古い幅広い知識を組み合わせていた。1989年に発売された「ゲームボーイ」は、当時の「最先端」とは言い難かった。画面は白黒でカラーではなかったし、プロセッサー(演算処理装置)は70年代に最先端だったレベルだ。