――女性ということで苦労したことはありますか。
「当時の法律のため女性だけ残業時間に上限があり、男性と同じ成果を出すためにトイレに隠れて残業したことも。残業代が付かない管理職になればもっと働けると考えて、上司に直談判しました」
――リーダーを目指そうと思ったのはいつですか。
「30代半ばのころ、上司になった米国人のポール・デューワーさんに『内永さんは会社をやめるときにどの地位になっていたい?』と質問されたことがあります。私は当時は係長で11人の男性部下がおり、その地位ですら女性初と珍しがられていたので、困ってしまいました」
「大げさなことを言うと笑われるかなと『開発の部長くらい』と答えると、『そんな低いレベルでいいのか。社長や会長を目指せ』と言われました」
「この助言を機に目線を日々のことから将来の仕事に引き上げることができ、目標まで5歳ごとに年を区切って、どんな仕事や役職を経験すべきかという計画を作ることも教えてもらいました」
――内永さん自身はどのようなタイプのリーダーでしょうか。
「いい人」でなくていい
「私は面倒見がいい、部下を励ますというような一般的な良いリーダーではないかもしれません。ただ、全体を俯瞰(ふかん)し、枠組みを考え、優先順位を付けることは得意です」
「日本IBMでは研究開発部門に長くいました。世の中がどう変化するか考え、発想の転換を求められ、常に議論をしてきました。もともとの性格と物理学の経験、IBMの環境がリーダーの素地をつくったと感じています」
――理想のリーダー像とのギャップに悩んだことはありますか。
「ありますよ。『私って人間的にはだめかな』と友人の女性にこぼしたことがあります。そうしたら『別に人間的には少々悪くてもいいじゃない』と言われて驚きました。少々癖がある人でも、面白い仕事をさせてくれる、昇進のチャンスを与え給料を上げててくれる、社内の賞を取ってきてくれる……そういう上司は、半端な『いい人』よりも良いリーダーだと言われて、見方が変わりました」
――部下との関わりで印象に残っていることは。
「役員になる前の40代前半、数カ月ごとに副社長補佐、担当部長などを転々としていた時期がありました。いつも100人以上の部下がいましたが、ほとんどが男性で、その分野での経験が長い人も多かった。私は『バカにされたくない』と思っていました」
「あるとき次の部署への異動が決まり、長い間課長を務めていた男性に『私へのアドバイスがあったら言ってください』とお願いしたことがあります。すると彼から『内永さん、私たちをもっと好きになってください』と言われ衝撃を受けました」
――その後、行動は変わりましたか。
「当時の私は、部下が素晴らしい発言をしても、もっと良いことを言おうとしたり、部下たちと張り合ったりすることがあった。部下を好きになるよりも、負けたくないと構えてしまっていたのです。そうすると相手にも構えられます。それからは仕事で誰かと対立することがあっても、心の中で『私はこの人が好きなの』と思うようにしています」