復興とともに進化する日本酒 福島・大熊町「帰忘郷」

2022/3/27
大熊町の吉田淳町長(右から3人目)ら関係者が2年目の商品完成を祝った(2月17日、同町)

東日本大震災と東京電力福島第1原発事故の被災地に、一風変わった名前の日本酒ができた。福島県大熊町の「帰忘郷」。避難は長きにわたれど忘れ得ぬ故郷――。そんな思いを宿している。

「1年目よりいい(原料の)お米がとれた。復興に向け変わっていく大熊町を思い浮かべてもらえるような味わいに仕上がった」。2月、大熊町内であった完成報告会。醸造元の高橋庄作酒造店(会津若松市)の高橋亘社長がデビューから2年目の帰忘郷をPRした。

沿岸部の大熊町から西へ約100キロ。会津若松市は内陸の雪国だ。原発事故後、大熊町から多くの避難者を受け入れた。町の一部で避難指示が解除された2019年までの約8年間、役場機能も置かれた。

「お世話になった会津の人たちに恩返しできないか」。帰還開始を前に、町の若手職員3人が話し合った。持ち上がったのが町産米で仕込む酒造り。「会津に来て、日本酒はこんなにおいしいのだと知った」(町職員の石田祐一郎さん)のも大きかった。

市内の酒蔵に醸造を打診するなかで、高橋社長に出会った。「うちはその手の企画は受けていません。ただ、今回は『気持ち』でしょ? できることはやりますよ」。蔵を訪ねた石田さんに高橋社長はこう伝えたという。

高橋亘社長㊨は21年8月、大熊町を訪れ、酒米の生育状況を根本友子会長と確認した=おおくままちづくり公社提供

その「気持ち」に応えた人が地元・大熊町にもいる。町農業委員会の根本友子会長。除染後の田んぼでコメの試験・実証栽培の先頭に立った。20年からは帰忘郷用の酒米「五百万石」を育てる。「若い人と一緒に酒造りの夢を見ることができる。幸せだ」と笑う。