
イタリアの「バール」と呼ばれる店をご存じだろうか。本来は、コーヒーの専門家バリスタがつくるエスプレッソ(コーヒー)を主体とした「軽食も菓子もアルコール飲料も出すカフェ(喫茶店)」だ。しかし、時代の流れに合わせ、しっかりとした食事がとれるバールも増えた。日本でも、新型コロナウイルス感染拡大などいろいろなきっかけで、本格的な料理と菓子を出すバール形式の店が出てきた。
まずは、喫茶店文化が健在の京都市内にある「ボッカ・デル・ヴィーノ」(下京区木屋町)からご紹介しよう。「イタリアで働いた経験があれば誰でも、バールを開きたいと思うのではないでしょうか」。そう語るのは、オーナーシェフの野宮昭昌さんだ。野宮さんはローマの「リストランテ・ス・エ・ジュ」で1990年に料理修業したあと、京都府長岡京市のイタリア料理店で働いた料理人である。その後、京都市内に自分の店を開店させ、2015年にいまの木屋町に移転させた。

本場イタリアのバールには「バンコ」と呼ばれるカウンターがある。地域の住民や勤め人が立ち飲みしながら井戸端会議をする憩いの場であり、観光客にとっては情報収集の場でもある。ワインと料理を主とする野宮さんの店にもカウンターがあり、お客も楽しんでいたのだが、あまり活用はされていなかった。ところが、新型コロナウイルス感染対策のための緊急事態宣言が京都にも出され、酒類の提供ができずに客足が落ちたのをきっかけに、カウンターを使って、いままでやりたかった「朝バール」(朝8時~ 10時ラストオーダー)をはじめたところ、好評を博した。
メニューは、三日月形のパン「コルネット」、パンに具をはさんだ「パニーノ」、カナッペの「クロスティーニ」、サンドウイッチの「トラメッツィーニ」など。そのうちに、ローマのバールで食べられる「マリトッツォ」(生クリームをはさんだパン)を従業員である女性菓子職人がつくって出したところ、人気に火がついた。