――腕力がある人間はやはり悪玉になりやすいですか。

「力を持つと人間はおごりがちですよね。でも『おごれる者は久しからず』というように良い結果が出ないことが多い。思い出すのは2017年にアデランスが実施したMBO(経営陣が参加する買収)による上場廃止。以前、アクティビスト(物言う株主)として知られる米投資ファンドが筆頭株主になり、経営をかき回されたため、業績悪化に陥るなど苦しんでいた」

明るさと笑いを結束力に

「そんなときにアデランスの経営陣がインテグラルに接触してきたのです。初対面でしたが、とりあえず東京・銀座の和食店に出かけて一緒に酒を酌み交わしているうちにすぐに意気投合してしまった。会話の9割以上はビジネスに関係ない話題だったと思います。要するに信頼関係を築くことができたんです。人間は論理だけではない。ハートがつながることが重要です。以来、交渉が一気に進み、2カ月後にはMBOの発表までこぎ着けていました」

――最初にリーダーシップを身に付けるきっかけになった出来事は何でしたか。

「大学時代に所属した山岳部が大きかったかもしれません。冬山も岩登りも常に死と背中合わせです。リーダーは天候や山の状況、メンバーの体力や精神状態を冷静に見極め、必要に応じてその日の登はんを休むことも決断しないといけない。さらに狭いテントで仲間と長時間過ごすのはかなり気を使います。精神状態を正常に保つには明るさや笑いが絶対に欠かせない」

雪崩事故に遭い、消息不明になった一橋大学登山部の先輩たちを弔うために訪れたインドのヒマラヤ山脈で(2019年)

「もともと私は大阪生まれで吉本新喜劇などのお笑いが大好きですから、自分の役割はチームの潤滑油だとずっと意識していました。その場の空気をどうほぐすか、どうしたら皆に心地よい環境になるか、いつも考えています」

――経営危機を経験した会社を再建するには「ムードの切り替え」が効果的ですね。

「顔が見える経営が理想ですが、逆に言うと顔が見えない経営は危ない。企業経営にとって『規模と時間』は大敵です。規模が大きくなるほど、時間が経過するほど、人心が離れやすくなる。09年に資本参加したヨウジヤマモトの場合、アトリエ、販売、管理など部門が違うと顔も知らない人間がたくさんいる状態でした。これでは一体感が生まれない。そこでユニークな海外研修を取り入れました。異部門の4人でチームを作り、1週間から10日ほど好きな国を視察してもらうのです」

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職場の安心感作りに腐心