我ら子育て世代 支える苦労と充実感
Wの未来 男も動く(1)
働く女性(Woman)たちが周囲の理解や協力で輝きを増していく。「W」をひっくり返すと「M」になるように、女性の問題は裏返せば男性(Man)の問題でもある。
■知事が風土作り
7月28日、鳥取県米子市で開かれた「子育て同盟サミット」。女性が多い会場で、壇上に並んだのはスーツ姿の男性ばかり10人。少子化に危機感を持ち、子育て支援で連携しようと集まった30~50歳代の県知事たちだ。育児経験の反省と教訓が彼らを突き動かす。
主導する鳥取県知事の平井伸治(51)の2人の息子は大学生。旧自治省(現総務省)官僚だった頃の子育ては「猛烈社員の時代で十分やり尽くせなかった」。子育て支援に力を入れる今、「男性が関われば女性の負担が軽くなる」と説く。
平井は、2010年に知事として初めて育児休暇を取った広島県知事の湯崎英彦(47)が「世間が取れる環境作りが先」などと批判された際に援護。昨年8月、子育て政策を巡って話し合い意気投合した2人は「子育てで社会を変えていこう」と同盟を立ち上げた。
12年度の男性の育休取得率は1.89%。知事たちの挑戦は「育休イコール女性」という現状に一石を投じる可能性を秘める。
しかし時代の一歩先を行く苦労は並大抵ではない。
「ふざけるな」「帰っても席はないと思え」。09年、大手日用雑貨メーカーで初めて育休を取った徳倉康之(33)への風当たりは強かった。昇級を目指す勤務医の妻(33)は長男出産から早期の職場復帰を望んだ。徳倉のめげない訴えに上司はしぶしぶ判を押し、8カ月の育休に入った。
■海外転勤に同行
「育休というより修行だった」。ベビーカーを押して外出すれば白い目で見られ、「失業したの?」。平日の児童館で母子だけの中に入ると空気が一瞬で凍る。
試行錯誤でたどり着いたのは仕事では得られない充実感だ。妻より先にハイハイを見た時の喜び。妻もその間に専門医の資格を取り、年収も100万円ほどアップした。11年の次男誕生時には、逆に周囲の勧めで2カ月の育休を取得。いま、妻は第3子を妊娠中だ。
加藤一朗(47、仮名)が大手企業を休職し、公務員の妻、里美(46、同)の転勤に伴い、米国ニューヨークで「専業主夫」を始めて3年目になる。毎朝、13歳と9歳の娘に弁当を持たせて学校へ送り出し、掃除、洗濯、帰宅した子供と遊び、夕食の準備をする。
「家族が離れて暮らす選択肢は自分にはなかった。妻が産休を2度とってくれたぐらいしないとフェアじゃない」。迷わず休職し家族4人で渡米。今は仕事も辞め主夫に専念する。里美は「夫の支援がなければ今の仕事はできなかった」。
日本では男性の家事・育児時間は女性の約2割(11年)。欧米諸国の男性と比べても3分の1程度だ。女性がより輝ける社会を築くには、女性の自助努力とともに男性が担う役割も大きい。育休を取った三重県知事の鈴木英敬(38)は言う。「制度が整っても風土や意識が変わらないと無意味。大事なのは前例を作っていくことだ」(敬称略)
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