女性アイドルグループ、ファン獲得へ「フェス」「無料イベント」急増
日経エンタテインメント!
"会える"ことを武器に急成長したジャンルといえば、何といっても女性アイドルだろう。今では、ブームの先駆けとなったAKB48の「会いに行けるアイドル」というコンセプトを他のグループアイドルも踏襲、息の長いアイドルブームを支えている。
アイドルに"会える"機会は、パフォーマンスを見せる「ライブ」と、ファンと直接コミュニケーションをする「握手会」(やサイン会など)に大きく分かれる。「ライブ」と「握手会」を組み合わせたイベントも多い。
今年のキーワードとしては、「ライブ会場の大型化」「地方ツアー開催」「アイドルフェスの隆盛」などが挙げられる。さらに最近は、ショッピングモールなどでのイベントも急増中だ。今のブームを背景に、コアなファン以外にも目に留めてもらえるオープンな場で活動し、新たなファンの獲得を狙うグループが多いようだ。
"その場限り"の演出が重要
この夏、盛り上がっているのが、アイドルが一堂に集まるフェス。2010年にスタートした老舗の「TOKYO IDOL FESTIVAL」が8月4、5日に東京・お台場で3度目の開催。2月に「POP'nアイドル」を初開催したタワーレコードは、6月に早くも2回目を行った。8月11日にはエイベックスが「a-nation」を再編して立ち上げる10日間連続イベント「musicweek」の一環として「IDOLNATION」を開催した。。
さらに、ローソンHMVエンタテイメントは、8月2日から23日にかけて「日本縦断アイドル乱舞2012」を全国6カ所で開催。この企画の提案者であり、トイズファクトリーででんぱ組.incを担当する水野孝昭氏は「インストアイベントで地方に行くと、東京並みの熱気を感じることも多い。アイドルを待っているファンがたくさんいると感じた」と話す。
「最近は、1組のグループを追いかけるのではなく、いろんなアイドルを見たり、知りたいお客さんが増えている」と話すのは、東京・秋葉原など全国4カ所でアイドルグッズ販売店を運営する「アイドル横丁」代表の松永直行氏。同店主催の「アイドル横丁夏まつり!! 2012」も、7月に開催した。
こうしたフェスは、気になるアイドルを一気にチェックできるため、応援したいグループを探しているファンに好評。アイドル側も、単独イベントに来てくれるファン以外にアピールできる絶好の機会だ。
また、「フェスではその日だけの"スペシャル感"が生まれやすい。盛り上げるためにはそうした演出も意識する」と松永氏。4月の第2回アイドル横丁祭のエンディングでは、アイドル横丁のプロデュースを務める鈴木愛結氏の「会場みんなで歌える曲を」というアイデアで、B'zの「ultra soul」を合唱し、盛り上がった。人気のアイドルを集めてライトなファンの動員も促す一方、ライブ本来の魅力である"その場限定感"を強調、握手会などのコミュニケーションタイムを設けることで、コア層にも満足してもらえるイベントを作り上げている。
一見と常連のバランスがカギ
フェス以上にオープンな場が、ショッピングモールなどでのイベント。こうしたイベントを数多く手がける制作会社、サンボードの渡辺羊輔氏は「以前は、カラーに合わないと敬遠する場所も少なくなかったが、アイドル人気が広がり、集客力や集まる客層が注目され始めた」と急増の背景を話す。今や、人気のスペースでは、3カ月から半年前の予約が必要なこともあるそうだ。
CDリリースに連動して行われることが多く、ライブを見るだけなら無料、CDを買えば握手などができるという形が一般的。「ツアー」などと称して、CD発売日前後に複数の場所で集中的に開催することも多い。それこそ、アイドルに全く興味がない人の目に触れる機会がある一方で、熱心なファンは何度も訪れるため、演出に凝るなど飽きさせない工夫も必要になる。例えば、私立恵比寿中学はデビューイベントツアーで、各回の内容を少しずつ変化させたように、ここでも"限定感"が重要になってくる。
グループ別の単独ライブに目をやると、今年はライブ会場の大型化が進んでいる。8月24日~26日にはAKB48が東京ドーム公演を開催するほか、ももいろクローバーZも西武ドームへ進出した。
この2グループに続き、アイドリング!!!、SUPER☆GiRLS、東京女子流、9nine、ぱすぽ☆といった面々も、日比谷野外大音楽堂など3000人規模の会場でライブを開催できるまでに成長。東京女子流は、12月22日の日本武道館公演も発表した。
会場が大きくなると、アイドルと直にコミュニケーションできるという魅力は薄くなるが、各グループとも、それを演出でカバーしている。3月のAKB48のさいたまスーパーアリーナ公演では、3日間のセットリストが大幅に異なった。ももいろクローバーZの横浜アリーナ2daysに至っては、1日目は通常ステージだったのを、2日目はセンターステージに変更するという離れ業を演じた。
ここでも、会場を大きくしてより広い層に見てもらうとともに、普段のライブとは違う、その1回しか体験できない限定感を明確にすることで、コアファンの関心をも引き付ける両面作戦が取られている。一見さんにアピールしてファンを広げつつ、いつもCDを買ってくれる常連さんも離さない…これがアイドルライブの基本戦略といえそうだ。
SNS向きな女子アイドル
なお、会場の大規模化と合わせ、地方を回るツアーも増えている。今年4月から、AKB48が47都道府県すべてを回るツアーを行っているほか、アイドリング!!!、SUPER☆GiRLS、風男塾などが初めて全国ツアーを開催する。
一方、地方ではAKB48にならって常設劇場で活動をするアイドルグループが目立つ。また、メジャーデビューしたばかりのグループも、「定期公演」と銘打って連続性とテーマ性を打ち出したライブを行う例が多い。こうした公演ではパフォーマンス後に握手会などを行うのが一般的。まずはコアな"常連さん"を固めるためのイベントが定期公演の役割なのだろう。
こうした様々なタイプの"会える"イベントが盛況なことについて、「今のアイドルファンは足を運んで体験したことをブログやツイッターで発信し、ネット上で交流するのを楽しんでいる」と、アイドル横丁の鈴木プロデューサーは言う。ネットでは、ファン同士のコミュニティーが形成されており、その輪に入って発言するには、自らも実際にイベントを見るしかない。しかも、「アイドルライブは、出演者のかわいいさとか一生懸命さとか魅力が分かりやすい。ファンも語りやすいので、ソーシャル時代にマッチしたコンテンツだと思う」(鈴木氏)。アイドルとファンだけでなく、ファン同士でも交流できることが、アイドルライブ人気の一因といえるようだ。
また、生で会える機会が増えたことで、「最近はファンの目も肥え、本当に応援しがいがあるアイドルかどうかを見ている。単にかわいいだけで、本気さや必死さがなければすぐに見抜かれ、飽きられる」と、ライブアイドルのフェスを多く企画するポニーキャニオンアーティスツの出田智彦氏は指摘する。会える時代のアイドルは、パフォーマンス力に加え、ファンに正面から向き合える人間性までが問われるのかもしれない。
【ケーススタディー】 私立恵比寿中学のモールツアー
2カ月でモールイベント20回、"CD予約大作戦"の舞台裏
アイドルがデビュー時や勝負シングルを発売する際、最近しばしば行うのがリリース前の「予約会イベント」だ。ライブを無料で見られるほか、CDを1枚「予約」するごとに、握手などの特典を付ける。発売前に予約数を積み重ねて、初週にチャート上位を狙う。
5月5日にシングル「仮契約のシンデレラ」でデビューした私立恵比寿中学を見てみよう。「スプリングデフスターツアー」と銘打った一連のイベントは3月4日のラゾーナ川崎からスタート。「人気の場所なので、デビューから逆算したこの日を数カ月以上前に押さえていました」(スターダスト・プロモーションの藤井ユーイチ氏)。
以降、毎週日曜日に各所で2回ずつイベントを行う予定だったが、出だしでつまずく。3月11日と18日の集客が悪天候などもあって、極端に落ちたのだ。「飽きられたのではないか」という不安から、イベントは各日1回に。その分、ステージの時間を長くし、選曲や演出を工夫するようにしたという。
"2回行く"が予約会の鉄則
例えば3月25日は、4月から高校生となるメンバーの「卒業しない会」をサプライズで開催。すべてのイベントに個別のタイトルをつけるなど、「ファンに繰り返し来てもらえるよう意識した」(藤井氏)。会場でCDの予約票を書くわずらわしさを避けるため、PDFファイルの書式をサイトに用意しておくなど、細かい点にも気を配った。
順調に客足は回復し、迎えたCD発売週には8日間連続でイベントを敢行。ポイントはCDが店に届く「店着日」以降、それまでに回ったのと同じ場所に行くこと。ツアー前半にイベントを開催した店で予約したCDを受け取ってもらうための"再来店戦略"だ。結果は2.0万枚を売り上げ、週間チャートで7位に。トップ10入りという、当初の目標を達成した。
(ライター 矢口紗)
[日経エンタテイメント!2012年7月号の記事を基に再構成]
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